少子化と「人口論」(江頭教授)
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このところマルサスの「人口論」についての記事を書いているのですが、今回は「人口論」を現在の日本の状況と比べてみましょう。
良く知られている通り、日本の人口は第二次大戦後から増加を続けていたのですが2008年以降減少に転じています。戦後の人口増加は「人口論」でよく説明できるのですが、問題は最近の人口減少をどのように説明するか、です。
「生活物資は等差級数的にしか増加しない。」
から、人口の成長は抑えられる、というのが「人口論」の説明です。ここで「生活物資」は具体的には食糧、あるいは農業生産物の事なのですが、まずこれは現在の日本では妥当ではない。確かに日本の食糧自給率はカロリーベースで38%と低い値ですが、これは残りの62%の食糧を海外から輸入することができている、ということでもあります。
ではなぜ人口が減っているのでしょうか。
日本の人口の推移(総務省「情報通信白書」より)
マルサスが「人口論」で考えたのは「下層階級」の人々の人口でした。無教養な彼らは食糧があればその分だけ人口を増やすので、ひとたび不作の年があれば飢餓に陥り人口が減る(一部の人が死ぬ)ことになる。というのですが、現在の平均的な日本人がそこまで愚かであるとは思えません。マルサスは人間が本能として
人口は、何の抑制もなければ、等比級数的に増加する
性質を持っていると結論づけていたのですが、現在の日本人はその本能を克服した、と考えられるのではないでしょうか。その点でマルサスは間違っていたと。
あるいは、マルサスの考えた理屈正しくて、人間が必要とする「生活物資」が現在では食糧以外の何かに変化しているのかも知れません。だとすれば、その「何か」に対する飢餓が今の日本でも頻発している、という理解になるのですが...。
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