食料自給率を上げよう、と言いますが(江頭教授)
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皆さんは「フード・アクション・ニッポン」という活動をご存じでしょうか。検索すればすぐに以下の様なホームページが出てきます。このホームページの中でフード・アクション・ニッポンとは、
日本の食を次の世代に残し、創るために、日本の食料自給率の向上を目指した国産農林水産物の消費拡大の取組です。より多くの国産農林水産物を食べることによって食料自給率の向上を図り、食の安全と豊かさを確かなものとして子供たちの世代へ引き継いでいくことを目指します。
と説明されています。農林水産省が主導する国産農産物の振興のための事業の様ですね。
この活動の国産農産物の消費拡大までは納得できるのですが、そのあとにつづく「食料自給率の向上」という目標はどうでしょうか。今回は食料の自給率について考えてみたいと思います。
まず、現在の日本の食糧自給率はどの程度なのでしょうか。これも検索すれば農林水産省のデータがすぐに確認できます。カロリーベースで38%、生産額ベースでは65%となっています。
生産額とカロリーでは大きな違いがありますが、野菜など値段が高い割にカロリーは低い食品が多いこと、そもそも輸入食品が安いことを考えると、この違いも理解できると思います。
では、この自給率は「問題」なのでしょうか。
フード・アクション・ニッポンの立場は問題だ、というものなのでしょう。でも、どうして?
食糧自給率の向上が大切であることの理由としてフード・アクション・ニッポンでは以下の様な説明がされています。
日本国内の食料供給の安全を確保することができれば、それは世界の食料生産拡大へ貢献することにも繋がります。日本産の食物を食料自給率の低い国へ供給する等、食料の循環を積極的に行うことで、世界の食料問題解決への貢献をも目指します。
この説明、先のカロリーベースの自給率を重視している点と併せて、私には「食料が商品である」という視点に欠けていると思われます。
日本の食料生産が増大して世界にどんどん食料を供給するようになったとしましょう。その時、日本から食料を輸入している国の食料自給率は下がるので、その国ではその国の「フード・アクション・○○」という運動が起こるのではないでしょうか。
上記のような考え方では、日本が食料を供給するのは良いが、他の国から供給されるのはいやだ、ということになってしまいます。ぎりぎり、どの国でも自給自足するべきだ、ということまでなら納得できるのですが、日本が食料生産の部門で世界をリードするべきだ、というのは余り説得力を感じません。
日本という国が食料生産において世界に対して特別な責任を負っていると考える理由は無いと思います。だとすれば食料の貿易は普通の商品の貿易と同じであり、売る人と買う人との同意があれば自由であるべきではないでしょうか。結果として日本の農産物が世界で広く受け入れられて自給率が100%を越えた、というのなら喜ばしいことです。しかし、政府がそれを目的とする、となるとこれはやり過ぎというものです。
もちろん、自給率の議論には食料の安全保障という視点があることは分かっています。しかし、食料の安全保障が重要だと考えるなら、正面からその視点で論じるべきでしょう。その点、フード・アクション・ニッポンの説明は焦点が定まっていない。そう私は思うのですが如何でしょうか。
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