推薦図書 ハンス・ロスリングほか「FACTFULNESS(ファクトフルネス) 10の思い込みを乗り越え、データを基に世界を正しく見る習慣」(江頭教授)
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以前「世界が良くなっている事を示す すごい 映像」と題してこちらの映像を紹介しました。世界の200以上の国の人々の平均寿命と平均年収の200年間にわたる変化を4分間に凝縮したもので、「世界が良くなっている事」が分かり易く示されています。
さて、この映像をBBCと協力して作成したのがハンス・ロスリング博士。スウェーデン出身の医師であり公衆衛生学者であり、今回紹介する「ファクトフルネス」の主著者です。
ハンス・ロスリング, オーラ・ロスリング, アンナ・ロスリング・ロンランド 著
上杉 周作, 関 美和 訳
FACTFULNESS(ファクトフルネス) 10の思い込みを乗り越え、データを基に世界を正しく見る習慣(日経BP 2019)
以前発展途上国、あるいはもっとあからさまに後進国と呼ばれていた貧しい国々の多くは今や大きく変革を遂げて豊かになりつつある。世界はこんなにも良くなっているのに多くの先進国の人々の意識はアップデートされずにいまでも世界の大半の人々が飢餓と隣り合わせの極貧生活に喘いでいると考えている。事実(ファクト)に目を向けず思い込みにとらわれているのは普通の人々に限らない。先進諸国の指導的な立場の人々もこの思い込みから自由ではないのだ。
この問題意識は先の映像と同じです。しかし、この映像の様な教材による知識のアップデートを試みた後にハンス・ロスリング博士は「やがて知識のアップデートだけが問題ではないことに気づいた。」と言います。人々の心に「思い込み」が刻み込まれているのは単に新しい情報に接していないからではない。ものの見方に固有の傾向、本能のようなものがあり、それが正しい知識の受け入れを拒んでいるのだ。「ドラマチックな本能と、ドラマチックすぎる世界の見方」が偏った世界への思い込みを固定化している。このような思考の本能をただすための心得、それが「ファクトフルネス」なのです。
ハンス・ロスリング博士は「ファクトフルネス」で正すべき10の本能と10の思い込みを挙げています。たとえば「分断本能」によって作り出される「世界は分断されている」という思い込み。この思い込みに対抗するファクトフルネスとは「話の中の分断を示す言葉に気づくこと」であり、「平均の比較」「極端な数値の比較」に注意することで達成できるとされています。
さて、私は皆さんに本書を読まれることを強く推奨します。是非読んでみてください。
こう前置きした上で「ファクトフルネス」について私の考えを述べれば「それができれば苦労はない」です。ハンス・ロスリング博士が見いだした問題は非常に深刻で重要です。しかし、その解決策は他の人に比べればずば抜けているのですが問題を解決するには不足している様に思えるのです。
ハンス・ロスリング博士は発展途上国の厳しい環境にある人々と苦労をともにしてきた医師であり、危険な伝染病に取り組む医療関係者を指導し勇気づけてきた人物でした。その経験を通じて指摘される人間の思考の本能とその危険性についてのエピソードは読み物としても面白い上にとても深い内容を含んでいます。
そんなハンス・ロスリング博士が大きな問題に果敢に取り組んだ結果が本書なのですが、残念ながらその挑戦は道半ばだったのではないでしょうか。非常に残念なことですが私はその結果を受け入れるしかありません。なぜならハンス・ロスリング博士はガンによる死の宣告を受けてこの著作に取り組み、そして完成直前に亡くなったのですから。
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