購買力平価のはなし(江頭教授)
| 固定リンク 投稿者: tut_staff
先日の記事「豊かな人、貧しい人-推薦図書「FACTFULNESS(ファクトフルネス)」追記」のなかで
この金額は購買力平価で補正されています。
という表現を使ったので今回は購買力平価について少し説明したいと思います。
世界の人々が貧しいとか豊かだとか比較をしようとすれば円(あるはドル)だけで考えることができません。世界にはいろいろな通貨があるので、その換算をしないと比較はできないですよね。では、どのように換算するのか。
真っ先に思いつくのは「為替レート」ですが、これでは生活実感と合わないことがあるのです。例えば海外に行くと「物価が高い」とか「安い」と感じることがあります。海外旅行で買い物をするときは為替レートに換金手数料がプラスされるので円に換算するとその分だけものが高くなるはずですが、それ以上に物価が高かったり安かったりするのです。
私は研究の関係でオーストラリアに行く機会が多いのですが、オーストラリアドルは現在1オーストラリアドルが80円くらい。向こうのスーパーに行くとサラミソーセージが100gで1オーストラリアドル以下で売られていたりして激安です。さすが酪農が盛んな国は違うと思うのですが、その一方で500mLのコーラは安くても3オーストラリアドルで結構高い。ものによってそれぞれに日本との値段の違いを感じるのですが、この物価の違いを補正して、一定のお金、たとえば1米ドル、と買える商品の量が同じになるようにお金の換算をしよう、というのが「購買力平価」の考え方です。
とはいえ市場に出回っている商品はいろいろ。「サラミソーセージ購買力平価」とか「コーラ購買力平価」とか、考え出すときりがないので普通は使われません。一般に「購買力平価」は平均の物価を用いて計算されています。(例外的にマクドナルドのビッグマックを基準とした購買力平価は「ビッグマック指数」と呼ばれて時々使われています。)
さて、ではオーストラリアと日本の購買力平価はどのぐらい違うのでしょうか。
OECDが公表している購買力平価のデータを見ると2017年では
1米ドル=1.44オーストラリアドル
となっています。一方、日本円は
1米ドル=102.47円
だとか。(OECDの購買力平価は米ドル基準になっています。)
「FACTFULNESS(ファクトフルネス」の1日の所得による4分類で、一番貧しい人たちは一日の収入が「2米ドル以下」と表現されていますが、これは「2.88オーストラリアドル以下」とか「205円以下」となります。
では、私がオーストラリアで1オーストラリアドル分の買い物をしたと考えてみましょう。おなじ買い物を日本でするのに必要な金額は日本円で71円(=102.47/1.44)となります。これがオーストラリアドル基準での日本円の購買力平価というわけです。
2017年当時の為替相場は1オーストラリアドルで85円程度だったと思います。私が出張した際には85円(プラス手数料)をだして1オーストラリアドルに換金して買い物をするわけですが、買ったものの価値は71円分しかない。平均ではオーストラリアの方が物価が高いということですね。
「解説」カテゴリの記事
- 災害発生時の通信手段について(片桐教授)(2019.03.15)
- 湿度3%の世界(江頭教授)(2019.03.08)
- 歯ブラシ以前の歯磨き(江頭教授)(2019.03.01)
- 環境科学の憂鬱(江頭教授)(2019.02.26)
- 購買力平価のはなし(江頭教授)(2019.02.19)