堺屋太一氏の訃報にふれて(江頭教授)
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作家の堺屋太一氏が亡くなった、そんなニュースが昨日(2019年2月10日)流れてきました。今日11日には読売新聞のサイトにも「造語「団塊の世代」…作家・堺屋太一さん死去」というニュースが載りましたから確かな情報なのでしょう。
堺屋太一氏は私の好きな作家、というか著述家だったのでこのブログでもいくつもの記事で著作を紹介しています。近々では平成三十年にちなんで「平成三十年」(その1、その2、その3)を紹介しました。小説「平成三十年」は氏が得意とする未来予測小説ですが、平成九年から十年に書かれたものを実際の平成三十年から読み返してみると外れた部分と当たった部分のコントラストが面白く感じられたものでした。
氏の未来予測の基礎になっているのは人口論、なかでも日本の人口構成にいびつさに注目した論点が独特で、その考察をもとに書かれた未来予測小説「団塊の世代」はそのタイトルが一般的な用語として定着するほどのインパクトがありました。この本についてはこちらとこちらの記事で紹介しています。
堺屋氏の著作ではこれらの未来予測小説が有名です。そもそも、氏の出世作で「堺屋太一」の名前が世に知られるようになったの「油断」という小説で、これは中東の石油に依存した1970年代の日本の産業社会の脆弱性を鋭く突いた作品でした。石油ショックのタイミングで出版されたことで評判となりましたが、驚くことにこの作品自体は石油ショック以前に書かれていたといいます。石油ショックは私の年代には非常に印象的な大事件でしたから私自身もこの「油断」で堺屋太一氏の名前を知ったのだと思います。
さて、氏の小説にはもう一つの流れ、歴史小説があります。「峠の群像」や「秀吉」などはNHKで大河ドラマとして映像化されています。こうしてみると歴史を研究して未来を予測する、氏のスタンスがはっきりとわかります。氏の研究の成果は小説だけではなく評論等の形でもアウトプットされて来たのですが、その最初期のものが「知価革命」で、これについてはこちらの記事で紹介しました。
さて、ここまでは作家としての堺屋太一氏の業績ですが、かれには通産官僚、池口小太郎として大阪に万国博覧会を誘致して大阪万博を成功させたことをはじめとする業績もあることにも触れておきましょう。
堺屋太一氏の作家としての活躍が石油ショック時の「油断」からスタートしたことが象徴するように、氏の考察は日本人が高度経済成長の終わりをいかに受け入れるべきか、どうしたら受け入れることができるのか、というテーマをめぐるものだったと私は思います。今現在でも日本人は成長の終わりを受け入れられてはいないのではないか、だからこそ「サステイナブル」という概念が強調されているのではないか、そう考えると堺屋太一氏の作品をもっと読み続けていたかった。氏の訃報は本当に残念です。
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