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ハーバーとボッシュ、偉いのはどっち? 4年目 (江頭教授)

| 投稿者: tut_staff

 これは本学科1年生向けの「サステイナブル化学概論」というオムニバス形式の授業での私のレポート課題、本当は「どちらの業績を評価するか」という質問です。私の授業ではハーバーボッシュ法の説明をして、毎年この質問をすることにしています。

 ハーバーボッシュ法は空気に含まれる大量の窒素ガスを植物が利用できる形態に変化させる技術です。この方法でほぼ無尽蔵の窒素肥料を合成することが可能となり、70億を超える人口を支える現在の農業の礎となった偉大な発明です。

 ハーバーとボッシュ、フリッツ・ハーバーとカール・ボッシュ、の名前はこの空中窒素固定技術では必ず一緒に出てきます。

 しかし、その役割は大きく異なっていました。大ざっぱに言えば窒素、水素、アンモニアの平衡関係を解明し、高圧条件下で触媒を用い、比較的低温でアンモニアを合成する方法を考案したのがハーバーであり、高圧で水素を扱う場合に起きるいろいろな困難を一つ一つ解決して実用化したのがボッシュだ、という役割分担になります。

 さて、今年の結果は若干ハーバー有利。でもその差はごくわずかでほぼ均等な結果と言えるでしょう。

 数人の学生さんは「どちらか選べない」「どちらとも言えない」という解答でした。これはある意味当たり前の答えです。技術のシーズを見いだすことと、それを発展させて実用化すること、どちらも重要なのは当然ですし、そのどちらをより評価すべきか、という設問には科学的・客観的な答えなど、そもそもあるはずがないからです。ここで私が学生諸君に聞きたかったのは個人としてどちらに惹かれるか、もっと言えばどちらのタイプの仕事をしたいか、なのです。

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 今回ハーバーを推した学生さんのなかで目立ったのは、ハーバーは「0を1にした」からという理由でした。確かにそういう側面はあるのですが、それを言えば「大気中の窒素から窒素肥料をつくろう」というアイデア自体は当時一般的なものだったのですからハーバーのスタートラインは必ずしも0ではなかったように思います。それに「0から1へ、1からその先へ!」とスタートしても100に届かずに98ぐらいで時間切れになるケースも多々あるのが世の中というものですから、きちんと1を100にしてみせたボッシュの功績も評価して欲しいところですね。

 一方でボッシュを推した学生さんになかには「ハーバーが毒ガスの開発者だ」という点を問題として消去法でボッシュを選んだひとも。難しい問題ですが当時の意識では国のために兵器を開発する、という行為は必ずしも非難されるものではなかったと思います。それに、毒ガスによる戦争があのようなものになるとはハーバー自身も予測できなかったのではないでしょうか。今の視点でハーバーを非難するのも酷なように感じます。

 さて、同じ質問をくり返して今年で4年目となりました。来年はどんな結果になるのでしょうか。

江頭 靖幸

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