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「加温」の意味は「温度を加える」?(西尾教授)

| 投稿者: tut_staff

 私達の生活では様々な言葉が使われていますが,その使われ方は,ご存じの様に流動的です.言葉の流動性は,専門用語も例外ではありません.例えば,私の研究に関連した用語「陽極酸化」の英語は,はじめは”Anodizing”でしたが,現在は”Anodization”が主流になっています.黎明期から関わってきた方々からすると”Anodization”は受け入れ難い用語の様ですが,それぞれをキーワードとして文献を検索したところ,”Anodizing”は15408件,”Anodization”は43002件であり,倍以上の開きが生じていました.(ちなみに私も,”Anodization”を違和感無く使っています.)

 実験に関する用語で,最近まで気になっていたものに「加温」があります.この言葉は,試料を100~200℃に維持する際に学生が使い始めたのですが,初めて聞いた時から受け入れ難い感覚がありました.私にとって,それまで使っていた「加熱」や「昇温」の方が,はるかにしっくりします.ある時,大学図書館にある国語辞典で「加温」について調べてみたところ,ただ1つの辞典が取り上げており,そこには「冷えないように温度を加えること。」と書かれていました.温度は,一般的には熱に関する尺度ですので,この説明では,「尺度を加える」という,変な意味になってしまいます.しかし,その一方,普段から違和感無く使っている「加速」も「速度を加えること。」とありますので,自分の中に矛盾を抱え,もやもやした状態となっていました.

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 先日,仕事帰りに温泉に寄ったのですが,そこに「源泉加温」と書かれた札を見つけました.源泉を心地良い温度に維持する操作は,「源泉加熱」や「源泉昇温」よりも「源泉加温」の方が直感的に温かみがあり,好感が持てます.そこで私は,「加温」の意味を「冷えないように温もりを加えること。」と解釈することにしました.試料も,加熱や昇温ではなく加温された方が心地良く感じ,研究者の期待に応えてくれるかもしれません.

西尾 和之

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