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大学院博士後期課程のすすめ-3 ハイリスク・ハイリターンな博士後期課程へ進学する覚悟(片桐教授)

| 投稿者: tut_staff

 4月3日の大学院新入生ガイダンスで、博士前期課程(修士課程)進学の学生さんに、博士後期課程(博士課程)進学をおすすめしました。修士課程だけでも2年間余分に大学に行くのに、さらに3年間も行く事をなぜすすめるの?。といわれる方も多いでしょうが、それでも、私は「有能な方」には博士後期課程への進学をすすめます。

 上記の前書きには「有能な方」という制限を付けています。博士後期課程を誰にでも無条件に勧めるのは無責任きわまりないと思います。ハイリターンの影には必ずハイリスクがあります。このBlogではそのあたりを述べます。


 学位を揶揄して、「学士は参加賞、修士は努力賞、博士は一等賞」というそうです。学士号は与えられた課題をこなしていけば、つまり大学の授業や卒研に参加していれば、卒業して取れる。修士号は獲得するために人一倍の努力を必要とする。しかし、博士号は誰もが獲得できるものではない。それなりのセンスと才能を必要とします。博士課程において、努力は必要条件であっても十分条件ではないという事です。厳しい事を申しますが、努力は必ずしも報われません。

 人は残念ながら自分を客観的に評価できません。自信過剰な人も、卑下する人もいます。きっちりと客観的に評価できる人はほとんどいません。前(2019.04.09)に述べたにように大学の教員は、学生の能力目利きのプロです。その専門分野で博士号を取れるかどうかは、あなたの指導教員に聞くのが一番です。
 博士の肩書きを得たとしても、それに見合う実力を身につけられなければ、最悪です。肩書きがあなたの足を引っ張ります。
 自分に不安だった片桐は修士2年の時に、指導教授に「私は博士課程にすすめるでしょうか?」とお伺いを立てました。

 

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 博士号をとると博士になります、世間的には博士をとると大学の先生になれる(アカデミック・ポスト(略してアカポス)に就ける)と勘違いしている方が多くいます。現在、博士号は大学教員の必要条件であっても、十分条件ではありません。アカポスに就くことのできる人はごく少数です。「博士(工学)」の方の多くは企業や国立機関等の研究職になります。
 アカポスの獲得には実力だけではなく、運やタイミングも重要です。タイミングを逸すると正規職に就けずに「ホームレス博士」になってしまいます。最近、そのような非正規職の博士の実態をレポートした新書が沢山出版されています。博士課程への進学を希望している人は、一度このような本を客観的に読んでみてください。なぜ非正規職に就けなかったのか、その失敗例からその原因を読み取ることができるでしょう。

 これらの本を読んで私が気づいたのは

  1.  アカデミックポジションへの就職に拘泥している。それ以外の進路を考えていない。特に、現在の専門に強くこだわっている傾向があります。その専門が社会の要請にマッチしていなければ、大学教員にはなれません。
  2.  自分の能力を過信している。正規職に就けない方は「自分はアカデミックポジションに就いてしかるべき人材だ」という強気です。自分の中の選ばれない理由を無視しているようです。自分の問題点の反省と克服がなければ、どのような就職も困難です。
     白楽ロックビル氏の書籍には、アンケートの結果として、多くの(生物科学系の)大学教員や研究者は「自分は大学教員には向いていない」とむしろ卑下する傾向が強いそうです[白楽ロックビル「博士号とる?とらない?徹底大検証!―あなたが選ぶバイオ研究人生」羊土社(2000)]。
  3.  他責的です。選ばれない理由を他に求めています。政府の「ドクター倍増計画」の不備を責める論調が多いようです。確かに、そのような政策がオーバードクターを増やしたことを否みません。しかし、自分の専門で飯が食えなければ、自分の能力を他分野で活かせば良いのではないでしょうか?。少なくとも私は学生時代の自分の専門性を一旦捨てることで、生き残ることができました。

 大学院博士後期課程の進学を誰にでもすすめることはできません。博士後期課程への進学はハイリスク・ハイリターンです。研究者としての能力や教員としての能力に加え強い心も必要です。場合によっては自分の専門性や職種に拘泥せずに生きる覚悟も必要です。
 でも、もしその可能性にチャレンジしてみたいなら、まず自分の指導教員に博士後期課程への進学を相談してみてください。

片桐 利真

 

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