出版社の活字ばなれ(江頭教授)
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平成の終わりも秒読み段階、ということでこの30年で大きく変化したものを考えてみましょう。ということで今回のお題は「活字ばなれ」です。
皆さんは活字というものをご存知でしょうか。金属でできた1文字分の小さいハンコです。このハンコを組み合わせて文章を作り、それをページごとにきれいに並べる。並べたものを「版」、並べる作業を「版組」と言います。そして、この版を使った印刷が活版印刷。「グーテンベルクの活版印刷」と言えば世界史の授業を受けた人は聞いたことがあるのではないでしょうか。活字をつかった印刷技術によって本の印刷が容易になり文化の発展に大いに貢献したのでした。
ただし、一つの文章、一つの本を印刷するとき、その文章や本に含まれるすべての文字の活字を用意してそれを正しい順序で並べなければなりません。これを手作業で行うとなるとその手間は想像を絶するものとなります。私が個人的に思い出すのは「銀河鉄道の夜」の登場人物、ジョバンニが活字拾いのアルバイトをしている、という設定です。活字を並べる作業は専門性が要求されるものですが、大きな棚に大量にストックされている活字の中から必要な一つ一つの活字を集める作業(これが活字拾いです)はアルバイトでも可能な作業です。ただし、字が読める程度の教育は必要であり、肉体労働でありながら知的な雰囲気をもった仕事なのでしょう。その一方で活字には鉛が使用されていることから健康を犠牲にしながら働くという面もあります。
さて、平成も終わりとなる現在、活字はほぼ使用されなくなりました。版組と印刷は電子化されて活字という道具を使う必要がなくなったのです。大量の手間を省くことができ、図書の印刷は極めて迅速に低コストで行うことができるようになったのですが、一部の人たちはこれを「出版社の活字ばなれ」とよんでその文化的な悪影響を危惧しています。
おっと、最後の部分は冗談です。
「活字ばなれ」という表現はふつうには本(あるいは新聞?)を読まなくなることを意味しているように思います。本物の「活字」とは意味が違うのですね。
さて、平成の30年間、本来の意味での活字を使う必要がなくなったことで本を出版することが極めて容易になりました。このため、多様な本が出版されるようになりました。当初は出版される図書が増える割に校閲など人の目と頭による作業は(少なくとも当時は)自動化されていなかったので、平成の初期は出版される図書の質が下がったと感じた時期でもありました。出版物のなかに誤字(おそらく同音異義語の変換間違い)が散見されるようになったのがこのころだと記憶しています。
平成の中頃からインターネットが本格的に利用されるようになり、ネット上の文章を読む機会は格段に増えました。ネット上の文字情報を「活字」と呼ぶなら人が活字に触れる機会は圧倒的に増えていると感じます。その一方で出版社が取り扱う紙に印刷した文字に触れる機会は相対的に減ってきているかもしれません。特に最近、平成も終わりに近づくにつれて電子図書の浸透と新聞雑誌の不調が明白になっています。
広い意味で活字をとらえるなら、現状は「活字の出版社ばなれ」というべきなのかもしれません。これなら
一部の人たちはこれを「活字の出版社ばなれ」とよんでその文化的な悪影響を危惧しています。
も正しいかもしれませんね。
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