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2019年5月

2019.05.31

おもちゃとしての水銀(江頭教授)

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 水銀は有毒な元素であり、生活環境から排除すべきだ、とういう考えから日本国内では「水銀汚染防止法」が、国際的には「水俣条約」による規制が開始された、という件は昨日の記事や以前の「「安全工学」の講義 第10回 化学の安全 有害性(5) 水銀問題-1(水俣条約)」あるいは「「安全工学」の講義 第10回 化学の安全 有害性(6) 水銀問題-2(水銀の廃棄)」でも紹介しているのですが、今回は私の個人的な水銀に対する思い出話です。

 正直に言いましょう。水銀が有毒だ、と言われても私にはいまいちピンときません。子どもの頃、たまにですが水銀を見たこともありますし、触ったこともあります。それどころか水銀で遊んだこともあるのです。

 私が子どもの頃には水銀の体温計が普通に売っていました。たまに体温計が割れると中から水銀が流れ出してきます。これがなんとも不思議な物質で見ていて飽きない、というか触ってみて飽きない、面白い「もの」だったのです。水銀は非常に大きな表面張力をもっていますから、結構なサイズ(数ミリといったところ)でも球状にまとまることができます。体温計から出てきた水銀はそんなに大量ではありませんから、ほとんどは球体になっていました。キラキラした金属光沢のある球体はそれだけで目を引くのですが、頑張るとこれを分割することができる。分割しても相変わらず球体ですから、「壊しても同じ形になる」という不思議さです。(その一方で液体だ、という感覚は無かったですね。)これは面白いおもちゃだ、と思っていたのですがいつの間にか無くなっていました。おそらく母が処分したのでしょうが、はて、適正に処理されたのでしょうか。

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2019.05.30

「水銀マノメータ」の墓標(江頭教授)

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 水銀は常温で液体である唯一の金属元素であり、液体でありながら非常に密度が高いこと、電気をよく通すことなど化学的な性質以外でも特徴のある特性を持っていて化学の研究室では良く使用されていました。とはいえ有毒な元素でもあることからその使用に制限をかけた方が良い、という考えから日本国内では「水銀汚染防止法」が、国際的には「水俣条約」による規制が開始されています。(この辺の事情については本ブログの片桐教授記事「「安全工学」の講義 第10回 化学の安全 有害性(5) 水銀問題-1(水俣条約)」あるいは「「安全工学」の講義 第10回 化学の安全 有害性(6) 水銀問題-2(水銀の廃棄)」を参照してください。)

 と言うわけで、本学の応用化学科でも随時水銀の処分を進めてきました。古い伝統のある化学系の研究室では、ラベルの読めない試薬瓶や誰も開けたことのないロッカーなど、忘れ去れた水銀がありそうな場所や、下水の一部に謎の水銀だまりができているケースなどが有ったりします。比較的最近できた本学の応用化学科は、その点では大過なく水銀を含んだ機器類を集めることができました。

 本学科の水銀処理も大詰めなのですが、大口で残っていたのが学生実験室。なかでも数・量ともに大きかったのが圧力計(マノメータ)中の水銀です。

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2019.05.29

ハードディスクを壊しました。いや「壊れました」か。(江頭教授)

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 先日ノートパソコンを壊してしまった話を書いたのですが、今度はハードディスクのお話です。件のノートパソコンから内蔵SSDを取り出してデータを回収した際のこと。デスクットップパソコンのハードディスクに一時的にデータを移動したのですが、なんか様子がおかしい。あれ、やたらとコピーに時間がかかるけど...。えっ、自然にマウントが解除されてる。これは再起動...。などとやっているうちにとうとうディスクが認識されなくなってしまいました。

 えーっ、何にも特別なことはしてないのにハードディスクが壊れた!

 って、そうなんですよね。ハードディスクというものはいつ壊れてもおかしくないもの。ですから今回は「壊しました」ではなく「壊れました」です。ハードディスクは基本的には消耗品でなのですから、常々データのバックアップは必要だ、それは重々承知していたのですが...。

 さて、今回不調になったハードディスクは幸いにもデータ用に増設したものでシステムは入っていませんでした。早速、スクールバスで八王子駅の南口へ。バスの発着場のすぐそばにあるビックカメラのPC売り場でベアドライブを購入。そのまま大学に戻ってPCのハードディスクを交換することに。

 ここまでは問題無くできたのですが、さて、不調になったディスクのデータはサルベージできるでしょうか。

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2019.05.28

「地域連携課題」学内発表会(江頭教授)

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 昨日(5月27日)の月曜日、2019年度、第一期の「地域連携課題」の学科内発表会が行われました。

 「地域連携課題」という言葉、聞いたことがない、という方も多いと思いますが、本学の授業の名称です。本学科では3年生前期の授業。つまりクォーター制(前期を1期、2期の2つに分ける制度)で実施されるコーオプ実習の際、大学に残っている学生に向けて行われている授業です。シラバスには授業の内容は、「学生が地域の関係者と連携しながら地域・社会的な課題等に取り組む」ものとあります。

 本学部は八王子キャンパスにありますから、この場合の「地域」は具体的には八王子市のことです。八王子市の「担当者等を講師に招いて地域が抱える各種の課題を学んだ後」に、「学生が自ら主体的に地域から課題を選定」し、その解決方法を提案する、それが地域連携課題の授業内容です。この授業はグループワークを基本とし、いろいろな施設や企業を訪れて課題の解決方法を調査・分析、結果を比較検討することで効果的で具体的な提案を目指します。

 

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2019.05.27

電球って必要かな?(江頭教授)

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 ずいぶん昔、テレビの海外ドキュメンタリーを見た記憶なので出典を明示できないのですが「いつまでも切れない電球がある」という話がありました。普通の電球は長い短いの違いはありますが、長くても数年の間にはフィラメントが切れてしまって新しいものに交換しなくてはなりません。最近の電球は製造方法が規格化されているせいか、切れるまでの持ち時間が驚くほど均一です。同時期に交換した電球が同じ時期に次々と切れたりします。しかし、古い時代に造られた電球の寿命は大きくばらついており、極端に切れやすい電球がある一方でいつまでも切れない電球がある。それも数年と言わず数十年単位で点灯し続けている、というのです。

 まあ、これがどの程度信頼できる話なのかはよく分かりませんが、よほど特別な電球で無い限り、電球の寿命はやはり長くて数年といったところです。電球の寿命は照明器具の寿命より短い。逆に言えばシステムとしての照明で一番耐久性に乏しい部分が電球、もっと限定的に言えば電球のフィラメントだといえるでしょう。電球は、その耐久性の弱い部分をモジュール化した部品であり、これが簡単に交換可能であることが照明を広く普及させるうえで大切だったことは想像に難くありません。電球が切れるたびに業者を呼んで修理を依頼する必要がある、となると照明の導入はひどくコストのかかるものになるでしょうからね。

 さて、以上の議論は電球が切れやすい、という前提で話が進んでいました、現在その前提は崩れているのではないか、というのが今回のポイントです。

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2019.05.24

組み込み型電池と二つの時定数(江頭教授)

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 前回の記事で、ノートパソコンを買い換えたら電池が組み込み一体形になっていたことを書きました。スマートフォンなど、最近の携帯情報機器の電池は組み込み型のものが多いのですが以前はそうでもなかった様に思います。

 ぱっと思い出すところで携帯カセットプレイヤー、えーっと有名どころではソニーの WALKMAN です。(ワークマンじゃないよ!)WALKMAN には写真の様な専用のニッケルカドミウム電池、通称ガム電池が使われていました。アダプターをコンセントにつないでガム電池を充電。電池を入れると WALKMAN が使える様になります。

 これはとても便利で、予備の電池を買っておけば出先で電池切れになっても充電済みのものと交換すれば大丈夫、という使い方ができたのです。では、こんなに便利なガム電池、なんで今は使われなくなってしまったのでしょうか。

 えっと、まず確認しましょう。今話をしているのは携帯「カセット」プレイヤーです。カセット、つまりカセットテープが記憶媒体です。テープのリールを機械的に回転させてテープを動かして磁気的に記録された音声データを読み取るのです。必要とされる電力は必然的に大きいので電池の持ちが悪い。もし内蔵蓄電池を使っていたとすると、出先で電池切れになって後は帰って充電するまで使い物にならない、という事態が頻発したと思われます。電池交換ができる、というのは便利な機能と言うより、出先で使う事を考えると必要な機能だったのでしょう。

 

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2019.05.23

ノートパソコンが壊れました。いや「壊しました」か。(江頭教授)

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 大学で使っているノートパソコン、結構使い込んでいたからか、キーボードの一部のキーが緩んできました。(まだ壊してない!)普段使うものですからメインテナンスは重要、ということでキーボードの交換部品を発注して自分で修理することに。(ぜんぜん大丈夫!)

 交換部品が届いたので、ノートパソコンを分解して交換作業を開始します。メーカーのホームページには分解の手順が説明したマニュアルが公開されていてその通りに作業を進めます。大丈夫。以前から何回もやっていますから。(ここまでは何の心配もしていませんでした。)

 うーん、最近のノートパソコンは作りが細かいなあー。などと言いながらフレキシブル基板用の非常に小さなロック式コネクターをいじっているうちに、コネクターのノブの部品が外れてしまいました。(いや、まだなんとかなる。)ノブを付け直してキーボード交換にも成功、組立直して再起動すると...。(まあ、なんとかなったかな。)

 再起動はするのですがBiosの読み込みの前にFan Error.でストップ。(あれあれ?)

 どうやら先ほど壊してしまったコネクターはCPUファンにつながっていたようです。ファン自体は不安定ながらも動いてはいたのでどうやら接触不良の様子。あのコネクターをつなぎ直せばなんとかなる。と、頑張ったのですがノブの部品は小さすぎて巧く扱えません。そのうち部品自体が壊れてしまいました。ああっ!やっちまったぜ。

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2019.05.22

SDGsに人口問題が無いのはなぜか?(江頭教授)

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 SDGsは「持続可能な開発目標」つまり「Sustainable Development Goals」 のことで、国連が定めたサステイナブル開発のゴールです。(本ブログではこちらの記事で解説しています。)つまり、世界が直面している課題の一覧表というわけで17の分野で169のターゲットが設定されています。

 さて、先日ある会議でこのSDGsが話題になったのですが、その際一緒に人口問題の話が出たのです。そこでハタと気がつきました。「そう言えばSDGsには人口問題が含まれてない!」

 
 はて、人口問題は日本では深刻な問題として受け止められていますが、世界では問題になっていないのでしょうか。いや、日本だって世界の一部ですから17個も目標があるなら少しくらい触れてもらっても良いのでは…。

 

 もちろん、これには事情があります。日本で人口問題と言えば「少子化」のこと。つまり「人口が減る問題」なのです。少子化問題を抱えた国は日本以外にもたくさんありますが、そのほとんどは先進国です。一方で発展途上国(あるいは低所得国)では人口増加が起こっていますが、これは「人口が減る問題」が無いというよりは「人口が増える問題」がある、と言う状況です。つまり、おなじ人口問題でも国によってまったく逆にとらえられている、という事なのです。

 

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2019.05.21

なぜ雷が「稲妻」なのか?(江頭教授)

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 今回のお題は表題とおり、なぜ雷が「稲妻」と呼ばれるのか、についてです。なんで雷が「稲の奥さん」なのでしょうか?

 理由は「雷があると稲の実りが良くなるから。」です。「奥さんと実りに何の関係が...」というと難しい話になりそうですが、「雷と実りの関係」に注目すると少し化学の世界に近づいてきます。

 雷は大気中での大規模な放電現象であり、そのさい普通には起こらない化学反応も起こります。おそらく窒素分子の分解も起こる。通常の環境ではほぼ起こることのない窒素分子の活性化によって窒素酸化物などが生じ、それが窒素肥料の役割を果たすことで植物の(ここでは稲の)成長が良くなる、という訳です。

 窒素原子は大気の8割を占める窒素ガスの形で自然界に大量に存在しています。同時に生物の体を構成するタンパク質の基本要素、アミノ酸に必ず含まれている元素でもありますが、窒素ガスの分子はきわめて安定で植物はそれを直接吸収することはできません。(動物もですが。)窒素分子を分解してアンモニアや硝酸イオン、亜硝酸イオンなど、植物が利用できる形態に変化させる機能は自然界ではマメ科の植物の根に共生している根瘤バクテリアと呼ばれる細菌の作用が知られている程度です。雷の放電、つまり稲妻はもう一つの自然産の窒素肥料なのです。

 ハーバーボッシュ法による窒素固定技術が開発される以前、水田は窒素肥料不足の状態にあったはずですから、雷によって生じた窒素酸化物、窒素肥料を含んだ雨の降った場所は他より目に見えて稲の育ちが良かったのでしょう。

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2019.05.20

開催まで後一ヶ月「東京工科大学オープンキャンパス(八王子)」(江頭教授)

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 朝、スクールバスに乗っていてなんとなく気がついたのが写真のポスターです。「スタッフ募集!」東京工科大学のオープンキャンパスのアルバイトスタッフの募集が始まっていたのですね。

 なるほど、そろそろオープンキャンパスのシーズンです。ポスターにもある様に、八王子キャンパスでは第1回が6月16日(日)、第2回は7月14日(日)、つづいて8月4日(日)、8月25日(日)の全部で4回が予定されています。(正式な日程はこちらのサイトで確認してください。) 第1回まで丁度一ヶ月。もう少し時間があるのですが、アルバイトを希望する学生さんにも予定はあるでしょうから、今のうちにスタッフを確保しておこう、ということですね。

 

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2019.05.17

年に一度のワックスがけ(江頭教授)

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 小学校や中学校くらいの生徒さんたちは自分の教室の掃除をしているのではないでしょうか。高校生の皆さんもやっているのでしょうか。自分がどうだったのか、あまりにも古いことで思い出せません。とはいえ、一般的なビルのオフィスで社員がみんなで掃除、さあ机を動かしましょう、という姿は想像しがたいと思います。そういう場所では清掃は専門の業者に依頼しているのではないでしょうか。

 本学、東京工科大学もそれは同じです。床、廊下の掃除からゴミの回収、庭の手入れまで、専門の方々が担当してくれいていて、学内は清潔に保たれています。

 とはいえ、例外もあります。(いや「清潔」の例外じゃありません、業者の方が担当するかどうかの例外です。)研究室の中は一般の清掃業者の方には依頼できない場所です。何しろ、研究室の中には危険な薬品や高価な測定装置がゴロゴロしていて、その部屋を使っていない人にはどこをどう掃除して良いのか分からないのが普通でしょう。

 と、いうわけで研究室の掃除は研究室を使う人間、つまり我々教員と学生諸君、ということになるのです。では、どのくらい清潔度が保たれるのか。これは研究室によってレベルはバラバラだと思います。まあ、使用する装置や実験の形態など、もともと研究室の環境はバラバラですからね(ということにしておきましょう。)

 とはいえ、例外もあります。こんどは「研究室の掃除は業者の方が担当しない」ということの例外。それが年に一度のワックスがけです。

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2019.05.16

「工学部懇親会」って何?(江頭教授)

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 新学期が始まって一ヶ月と半分。10連休も終わって(おっと、大学は9連休でしたが)前期授業ものペースをとりもどし、学生諸君も落ち着いてきた様子です。教員にとって大きな行事であるオープンキャンパスにもあと少し時間がある。このタイミングで、工学部の懇親会が開かれました。

 さて、学部の教員の情報交換の場は「教授総会」「アゴラ」など、フォーマルな場もあるのですが、この懇親会はインフォーマルに情報交換をしましょう、という場でもあります。ということでアルコールあり。まずはビールで乾杯してスタートです。

 立食形式のパーティーなので三々五々集まってはいろいろな情報交換を。コーオプ実習先訪問で見た学生さんの様子や保護者懇談会での質問内容の確認、学科ごとの学生の様子や今後の学部の改善案、そして大学の運営に関する意見まで。ざっくばらんに話ができるのがインフォーマルならでの良さです。

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2019.05.15

「先生は何にも分かってくれない!」「はい、その通り。」(江頭教授)

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 大学生も4年ともなると自分の研究、卒業論文研究(卒研)を始めます。そのとき学生さんは「先生は何にも分かってくれない!」と感じているのではないかなあ、というのが今回のお話です。

 小学校から大学の卒研が始まるまで、先生と学生とのコミュニケーションは圧倒的に先生から学生へという方向に偏っています。たまに学生から先生に話をする場合も多くの情報は共有されているのが普通。要するに学生と先生とのコミュニケーションは必要とされる労力が極端に少ないのです。(精神的に話しにくい、というのはあるかも知れませんが、それとは別の話です。)

 講義や学生実験のなかで先生が学生さんに質問をする場合などはその典型例でしょう。先生の求める答えは実際には最初から決まっていて、学生さんはその答えを言い当てるだけで良い。極端に言えば自分はその答えが分かっているというサインをだせばOKだったりします。

 でも、これは卒研がはじまる前の話です。研究となれば主体は学生さん本人に。とくに学生さん本人が実施した実験の結果の内容を報告する段になると先生よりも学生さんの方が多くの情報を持っている状態になります。学生さんが先生に教えなくてはならない状況になるわけですね。

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2019.05.14

「実学」じゃなければ「虚学」なのか?(江頭教授)

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 ラジオのニュース解説番組を聴いていると耳慣れない言葉が。「虚学」が、どうやら「実学」以外の学問、という意味で使われているのです。最初は弁護士の方がしゃべったので「けったいな表現をする人だなー」と思ったのですが、ラジオのパーソナリティーの方まで「虚学は実学の反対」という解説を付けたので二度ビックリ。そんな言葉があるんだ!

 うーん、余りにも変だ。そう思って内閣府のホームページで「虚学」という言葉を検索してみました。該当は11件のみ。ちなみに同じ条件で「実学」を検索すると468件がヒットします。

 さて、この11件のほとんどは「実学」に対して「虚学」という言葉をその場の思い付きのように使っているものです。例外は日本学術会議の「新しい学術の在り方 ― 真の science for society を求めて ―」という平成17年の第19期日本学術会議「学術の在り方常置委員会」の審議結果報告書ですが、この中では「現在では実学と虚学は対立する概念とは言えない。」と明確に断り書きがついています。

 やっぱり「虚学」という概念があるとしても一般的ではなく、「実学とは言えない学問」を「虚学」と言い換えているだけではないでしょうか。実学だってそんなに定義がハッキリしていないのに、実学以外というのはもっとぼんやりした表現です。そして、端的に言って「虚学」という言い方は注意を要する表現であり、これが教育行政に関わる議論において専門用語として定着することは避けるべきことだと私は思います。 

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2019.05.13

私が考える「サステイナブル工学」(江頭教授)

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 「サステイナブル工学」。本学工学部の一つの特徴として打ち出しているコンセプトではありますが、「サステイナブル工学」は概念としては多くの人が考えているものの、「これがサステイナブル工学だ」という具体的な内容は定まっていないと思います。そこで今回のお題は私の考える「サステイナブル工学」ということにしましょう。

 さて、「サステイナブル工学」を考える前に今までの工学、というか現時点での工学とはどんなものかを考えて見ましょう。工学の誕生は産業革命と相前後していて、産業社会の進歩と同期して工学も進歩してゆきました。この産業と工学の進歩の成果は人々を豊かにするという点で疑いようもないほどに明白な成果を挙げています。多少の問題はあるとしても、この進歩の成果を全肯定することがサステイナブル工学の大前提だと私は考えています。

 この素晴らしい産業と工学ですが、このままでは環境破壊や資源・エネルギーの枯渇を招くことが分ってきました。このまま継続することはできない。つまり、現状の産業と工学はサステイナブルではないことが分かった。これは1970年代にはすでに広く知られる様になっていた考えです。

 ではどうすれば良いか。一つの考え方は環境破壊や資源・エネルギーの枯渇を防ぐために産業と工学の発展を抑制し、さらには後退させようという考えです。このような考えは私は絶対に認められません。そこが私の考える「サステイナブル工学」のポイントです。

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 環境破壊や資源・エネルギーの枯渇のためいままでの工学はサステイナブルでは無い、ならば進歩を抑制し時代を遡らせるのか?

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2019.05.10

貴金属に関する素朴な疑問 (雑感のような書評のような)(片桐教授)

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 今回は江頭先生(2019年5月2日)の「白金カイロの思い出」に触発されたブログです。

 小学生の頃は切手を集めていた。中学生になってからはマンガの単行本を集めていた。高校生は受験参考書や問題集を「集めて」いた。こうやってみると私の趣味は全て「収集」系のようだ。
 大学生になってからは知識を集めることが趣味のひとつになった。進路先として人類の能力の限界を広げる工学部ではなく知の限界を広げる理学部という学部を選んだ。どのようなことでも新しく知ることは喜びであった。できることなら「全知」になりたいと思う。しかし、それは人間の短い寿命では望むべくもない。「知」は限りないもので、それを集めきりコンプリートすることはできない。


 素朴な疑問を覚え、それを調べる勉強は楽しい。しかし、多くの素朴な疑問は、調べても、調べても、答えを見つけ出せない。

 私の中学生の頃の疑問のひとつは「なぜ白金カイロは『白金』なのだろうか」というものであった。「金よりも高価な白金を使わなくても、同族のパラジウムやニッケルで同じ機能はだせないのだろうか」というものである。
 この素朴な疑問を父(当時、化学の助教授)にぶつけた。「自分で調べてご覧」とはぐらかされた。理科の先生にも尋ねた。「それを理解するには、君の知識(知的な準備)はまだまだ不十分だから、もっと理科を勉強しないさい」とごまかされた。大学生になってからもいろいろな先生に尋ね、いろいろな書籍を読んだけども、満足のいく回答はどうしても得られなかった。

 わたしはしつこいタチのようである。45歳を過ぎて、本屋でその答え(の一部)を記述している書籍を見いだした。

 

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左から白金、金、銀、銅のインゴッド(延べ棒)

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2019.05.09

「全学教職員会」って何?(江頭教授)

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 前回紹介した「教授総会」と「アゴラ」、本学の教員が参加する会議にはもう一つ、「全学教職員会」があります。

 実は、こちらの記事こちらの記事でも紹介しましたが、本学の「全学教職員会」はその名前通り本学の教員のみならず、職員も含めて全員参加する講演会形式の会議です。この点、学部レベルで開催される「教授総会」や「アゴラ」とは大きな違いです。

 「全学教職員会」は全員参加、とはいえ本学には我々工学部応用化学科がある八王子キャンパスとともに蒲田キャンパスもあります。同じ都内とはいってもそれなりの距離離れているキャンパスをいききするのは結構大変ですから、この「全学教職員会」では両キャンパスの会場の間で相互に映像配信を行い、それによって同時開催を実現しています。

 さて、4月10日の全学教職員会のテーマは学長と理事長による本学の運営方針、基本方針についてでした。学長と理事長による公開座談会という新しい試みも。これが本年度第1回です。

 さらに5月8日、昨日の全学教職員会ではもっと多くの登壇者が登場しました。

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 まずは学長が登壇。今日は蒲田からのオープニングトークでした。

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2019.05.08

「アゴラ」って何?(江頭教授)

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 本学の応用化学科、というか工学部は2015年の設立です。私はこの学部設立の1年前、2014年の4月1日づけで大阪大学から本学に移ってきたのですが、その間際の3月14日に

東京工科大学工学部アゴラの開催について(開催通知)

というメールが届きました。ということで今回のお題。「アゴラ」って何?

 まず、このメールにあるアゴラですがメールの本文中に「本学工学部に参加いただきます先生方による打合せ会」と説明がありましたので、まあ意味は分かります。でもなんで打合せ会がアゴラなんだろう。

 本学に来て分かったのですが、「アゴラ」というのは学部で行われる会議のこと。これは他の大学でも「学科会議」とか「領域会議」の名称で行われているものです。これらの会議には二つの役割があり、一つは学科や学部としての決定を行うこと。例えば卒業判定の結果を承認したり、教員の学外(学会など)での活動に許可をだすことなどがこれに当たります。もう一つは学科にある問題点を検討したり大学全体の制度変更に対して意見を出すなど、問題点を話し合うことです。

 本学の場合、決定を下すための会議を「教授総会」と呼び、話し合いのための会議を「アゴラ」と呼んで両者を区別しているのです。本学に赴任前の私達を含めて「本学工学部に参加いただきます先生方による打合せ会」であれば「アゴラ」に分類される訳ですね。「教授総会」と「アゴラ」、参加者は同じですが位置づけは異なりますから議題も議事運営の雰囲気も違っています。「教授総会」の中でも、決定できるほど内容が詰め切れていない場合には「この議題は次のアゴラで議論を」などということもあります。会議の運営方法としてはなかなかよくできていると思います。

 ということで、もう一度。本来「アゴラ」って何でしょう?

 

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2019.05.07

今日は10連休明け?いえいえ、本学は一足先に授業を再開しています(江頭教授)

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 平成から令和へ。今日令和元年5月7日は10連休の特別なゴールデンウィークが終わった連休明けの初日です。長いお休みも終わり、さあ今日から頑張りましょう、というのが世間一般かも知れません。しかし、本学では実は昨日、5月6日から授業がスタートしていたのです。

 大学の授業の授業は曜日毎に決まっていますから一つの学期のなかで同じ回数の授業をこなすためには休日の扱いはやっかいです。休みがある曜日の授業は一回減らそう、などという訳にはいかないですからね。

 一学期の中に数回程度、ランダムに休日が或る程度なら学期末に変則的な日程を組むことで或る程度対応することができたのですが、最近は休みが月曜日に集中するようになりました。最後の週を「月月火水木金金」にしても対応できない、ということで大学では休日でも授業を行う、休日開講という制度ができました。これは本学独自の制度ではなく他の大学でも広く行われているようです。

 

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2019.05.06

平成時代の二酸化炭素排出量(江頭教授)

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 平成時代、広くとれば1989年から2019年までの31年間ですが、年度で考えて1989年度から2018年度までの30年間と考えることにしましょう。この期間の歴史を振り返る、という話題は特にこの連休の初めにはたくさんあったと思いますが、ここではCO2の排出量という観点で平成の時代を振り返ってみたいと思います。

 まずはデータから。以前紹介した「全国地球温暖化防止活動推進センター」JCCCAのサイト、特に「すぐ使える図表集」のコーナーにそのものずばりのデータが出ていました。ただしデータは1890年度から2016年度までで前後1,2年ほど範囲が狭くなっています。グラフは左メモリの棒グラフが日本の総排出量、右目盛りの折れ線グラフは一人当たりの排出量です。グラフの縦軸は左右どちらも0よりかなり高い値からスタートしていることに注意してください。全体では一割程度の変動が強調して表示されています。

 さて、このデータをみてまず気が付くのは2009年度を中心とした大きな谷でしょう。これは2008年の世界的な金融危機、いわゆるリーマンショックの影響です。これをみるとリーマンショックが本物の危機であったことがよくわかります。

 これに比べるといわゆる日本のバブル崩壊(1991年~1993年)はCO2排出量にそれほど大きな影響を与えていないことがわかります。排出量は1998年度、平成10年度にはやや大きな谷間が生じていますが、2008年にリーマンショックの影響を受けるまでずっと増える傾向にあったこのです。特に平成最初の10年はかなり速いスピードでCO2排出量が増し、次の10年では増加のスピードが落ちた、とみることができるでしょう。

 

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出典)温室効果ガスインベントリオフィス
全国地球温暖化防止活動推進センターウェブサイト(http://www.jccca.org/)より

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2019.05.03

パイプの太さとガスの流れ(江頭教授)

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 ガス管と建物を排気するダクト、両者はともにガスを輸送するためのパイプなのですがガス管は比較的細いのに対してダクトは太いパイプが用いられています。ガスには圧力がかかっているのに対して排気にはそれほどの圧力がかかっていない、だからダクトの方がガスが流れやすい太いパイプが用いられている、というのは容易に想像できることだと思いますが、さてパイプの太さとガスの流れにはどのような関係があるのか、というのが今回のお題です。

 問題を正確に定義しましょう。パイプの長さが同じ、ガス管の両端の圧力差も同じだとしてパイプの太さが変わったときにガスの流量はどの程度変わるのでしょうか。パイプは折れ曲がりがなく直線でそれなりの長さがあるとします。また、圧力差は絶対圧にくらべて比較的小さく、入口から出口までの圧力変化によるガスの膨張は無視できる程度だとしておきましょう。

 まず、パイプの断面積の違いから太い方が流量が大きい、というある種当たり前の違いがあるでしょう。パイプの太さが2倍になれば断面積は4倍になります。断面積だけで考えればパイプが4本に増えたのと同じことですから、単純に考えればパイプの太さが2倍になれば流量は4倍になる、と考えられるでしょう。

 もう少し考えて、パイプの中の流れが制限されるのは壁面が流れを邪魔しているからだ、壁面とガスの間に摩擦が働いているからだ、と考えてみましょう。圧力差によってガスにかかる力はパイプの断面積に比例する一方、摩擦力はパイプの周囲長に比例しているはずですからパイプが太くなるほど摩擦力の影響は相対的に小さくなるはずです。断面積は直径の2乗、周囲長は直径の1乗に比例していますから、その比を考えると直径の2-1=1乗に比例して流れやすくなるはずです。

 パイプの断面積と摩擦の影響、両方を考えると2+1=3乗に比例、つまりパイプの太さが2倍になると流量は8倍になると考えられるのでしょう。

 実はこの話はもう少し複雑です。まず、流れには「層流状態」と「乱流状態」があります。流れに渦や脈動がない状態は層流、流れが乱れて渦巻いている状態が乱流です。

 

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2019.05.02

白金カイロの思い出(江頭教授)

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 子供のころ、小学生ぐらいのころでしょうか。祖父が金属製の容器に入った揮発性の油を小さなケースのようなものに移しかえているところを見た記憶があります。ケースにはふたがあって黒っぽい布が付けてあったような。「一体、何をしているの?」と聞いたところまではおぼろげに覚えているのですが、はて、何と答えてもらったのでしょうか。そこら辺はあいまいです。

 この記憶、どれくらい正確なのは今となってはわかりませんが、おそらくケース状のものは白金カイロだったのだと思います。

 さて、白金(Pt)はいろいろな反応で触媒として利用されています。これは今でも化学の授業で習うことだと思いますが、私が学生のころには、白金の触媒としての応用例として「白金カイロ」が挙げられていたものです。これを習ったとき「ああ、あれが白金カイロだったんだな」と納得してたのですが、果たして真相はどうだったのでしょうか。

 この白金カイロ、構造としては単純で燃料である揮発性の油を入れたタンクに繊維を編んで作った芯が入ったもの。ここまでならアルコールランプのようなものですが炎のでるものを衣服の中に入れるのはさすがに危険です。芯の先端には白金の微粒子がまぶしてあって、燃料と空気中の酸素の反応を触媒することで低温酸化、発熱させるという構造になっています。

 

 これはなかなかのハイテク機器ではないでしょうか。大正末期の発明品で、それ以前には木炭を無炎燃焼させる方式のカイロ(灰式カイロ)が使われていたのですが、固体燃料は品質のコントロールが難しそう。一方で白金カイロでは燃料が液体なのがメリットですが、適切な発熱量で触媒反応を継続させつづけるのはかなりの調整が必要なはずです。

 

 さて、いまでは鉄の酸化反応による発熱を利用したカイロ、いわゆる「使い捨てカイロ」が広く用いられていて…

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2019.05.01

今日から令和。日本の課題とは。(江頭教授)

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 平成が終わり今日から令和となりました。だからといって何が変わるわけでもないのですが時代の一区切り、新しい時代の始まりということで今回は日本の課題について考えてみたいと思います。

 「日本の課題」といった漠然としたお題ですから、論じる人によっていろいろな意見があると思います。私の立場はあくまでも工学の研究者でありその視点からのものですが、私にとっての日本の課題はズバリ

資源(特にエネルギー資源)が自給できないこと

に尽きます。

 工学研究者というよりは私自身の志向、というか嗜好、という側面もあるのですが社会が抱えている問題は基本的には社会制度によって解決可能であるのに対し、自然と人間との間に存在する問題、つまり自然による人間活動に対する制限に対しては工学的アプローチが必要だと感じるのです。たとえば格差の問題は富の分配の問題であり、基本的には人間の間で解決できる話です。一方、絶対的な富の不足、人が生きていくために必要な物材が不足している、という問題は人間が自然に有効に働きかけることによってのみ解決できると思うのです。別の言い方をすれば工学は絶対的貧困をなくすために必要なもの。相対的貧困、つまり格差の問題は絶対的貧困を解決したあとの話ですよね、ということです。

 日本の現状はそういう意味ではまだ物材の不足が解決されていない状態であり、その不足を貿易によって補っているという状態だと考えています。

 

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