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パイプの太さとガスの流れ(江頭教授)

| 投稿者: tut_staff

 ガス管と建物を排気するダクト、両者はともにガスを輸送するためのパイプなのですがガス管は比較的細いのに対してダクトは太いパイプが用いられています。ガスには圧力がかかっているのに対して排気にはそれほどの圧力がかかっていない、だからダクトの方がガスが流れやすい太いパイプが用いられている、というのは容易に想像できることだと思いますが、さてパイプの太さとガスの流れにはどのような関係があるのか、というのが今回のお題です。

 問題を正確に定義しましょう。パイプの長さが同じ、ガス管の両端の圧力差も同じだとしてパイプの太さが変わったときにガスの流量はどの程度変わるのでしょうか。パイプは折れ曲がりがなく直線でそれなりの長さがあるとします。また、圧力差は絶対圧にくらべて比較的小さく、入口から出口までの圧力変化によるガスの膨張は無視できる程度だとしておきましょう。

 まず、パイプの断面積の違いから太い方が流量が大きい、というある種当たり前の違いがあるでしょう。パイプの太さが2倍になれば断面積は4倍になります。断面積だけで考えればパイプが4本に増えたのと同じことですから、単純に考えればパイプの太さが2倍になれば流量は4倍になる、と考えられるでしょう。

 もう少し考えて、パイプの中の流れが制限されるのは壁面が流れを邪魔しているからだ、壁面とガスの間に摩擦が働いているからだ、と考えてみましょう。圧力差によってガスにかかる力はパイプの断面積に比例する一方、摩擦力はパイプの周囲長に比例しているはずですからパイプが太くなるほど摩擦力の影響は相対的に小さくなるはずです。断面積は直径の2乗、周囲長は直径の1乗に比例していますから、その比を考えると直径の2-1=1乗に比例して流れやすくなるはずです。

 パイプの断面積と摩擦の影響、両方を考えると2+1=3乗に比例、つまりパイプの太さが2倍になると流量は8倍になると考えられるのでしょう。

 実はこの話はもう少し複雑です。まず、流れには「層流状態」と「乱流状態」があります。流れに渦や脈動がない状態は層流、流れが乱れて渦巻いている状態が乱流です。

 

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 層流と乱流、まず層流の場合について考えましょう。パイプの内壁とガスの摩擦とは止まっている壁面付近のガスと動いているガスとの間に働く力で、これは両者の速度差、正確に言えば流れと直交する方向の速度勾配に比例しています。流れの速度分布が同じだとするとパイプの太さが倍になれば速度勾配は半分に、つまり摩擦も半分になります。このように摩擦力はパイプの太さに反比例ことも考慮すると、層流の場合流量はパイプの太さの4乗に比例する、つまりパイプの太さが2倍になると流量は16倍にもなるのです。

 乱流の場合はどうでしょうか。乱流状態のとき、パイプの中は渦によってかき混ぜられているので流れ方向の速度分布は主に壁面で集中的に変化していてます。この場合、パイプの太さが変わっても壁面付近の速度分布は余り影響されません。乱流では流量はパイプの太さの関係は3乗から4乗の間になります。パイプの太さが2倍になると流量は8倍から16倍の間になります。

 さて、層流でも乱流でも、パイプが太くなるとガスは非常に流れやすくなります。逆に言うと「大量のガスを少ない圧力差で流したい」という場合、太いパイプを使う必要がある、だから排気ダクトは太くなくてはならない、ということになります。建物の中が加圧されていたり部屋ごとに圧縮ポンプが設置したりできれば細いダクトもあり得るのですが...。ダクトからスパイが侵入しそうな秘密結社の基地ならそういう設計も有りですね。

 

 

江頭 靖幸

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