おもちゃとしての水銀(江頭教授)
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水銀は有毒な元素であり、生活環境から排除すべきだ、とういう考えから日本国内では「水銀汚染防止法」が、国際的には「水俣条約」による規制が開始された、という件は昨日の記事や以前の「「安全工学」の講義 第10回 化学の安全 有害性(5) 水銀問題-1(水俣条約)」あるいは「「安全工学」の講義 第10回 化学の安全 有害性(6) 水銀問題-2(水銀の廃棄)」でも紹介しているのですが、今回は私の個人的な水銀に対する思い出話です。
正直に言いましょう。水銀が有毒だ、と言われても私にはいまいちピンときません。子どもの頃、たまにですが水銀を見たこともありますし、触ったこともあります。それどころか水銀で遊んだこともあるのです。
私が子どもの頃には水銀の体温計が普通に売っていました。たまに体温計が割れると中から水銀が流れ出してきます。これがなんとも不思議な物質で見ていて飽きない、というか触ってみて飽きない、面白い「もの」だったのです。水銀は非常に大きな表面張力をもっていますから、結構なサイズ(数ミリといったところ)でも球状にまとまることができます。体温計から出てきた水銀はそんなに大量ではありませんから、ほとんどは球体になっていました。キラキラした金属光沢のある球体はそれだけで目を引くのですが、頑張るとこれを分割することができる。分割しても相変わらず球体ですから、「壊しても同じ形になる」という不思議さです。(その一方で液体だ、という感覚は無かったですね。)これは面白いおもちゃだ、と思っていたのですがいつの間にか無くなっていました。おそらく母が処分したのでしょうが、はて、適正に処理されたのでしょうか。
有名なSF作家のアイザック・アシモフ博士は化学者(生化学者)であり、エッセイイストとしても活躍していましたが、確か彼のエッセイの一つに水銀の話が有ったように思います。(アシモフのエッセイは量が多すぎて原本を確認できていませんが...。)そのなかで「水銀を手のひらに載せて遊ぶ」という描写があったので、水銀で遊ぶ、というのは必ずしも特別なことではないのでしょう。ちなみに「水銀を手のひらに載せて」遊んでいたのはアシモフの奥さん(何人目だ?)で、指にはめていた銀の指輪が水銀と合金化(アマルガム化)して台無しになる、という落ちがついていました。
さて、水銀で遊んで大丈夫なんでしょうか。
もちろん、大丈夫ではないのですが、現に私は生きていますし、深刻な障害に苦しんでいる訳ではありません。ヴィッターハーン教授の事例にあるジメチル水銀(いわゆる有機水銀の一種)と違って、金属水銀そのものにはほぼ毒性は無いそうです。ただ、水銀が気化した水銀蒸気は有毒なのですが、私の場合は水銀蒸気が発生していたとしても幸いにしてそれほどの吸い込まずに済んだ、ということなのでしょう。
逆に言えば、「これを暖めたらどうなるんだろう」などと余計な好奇心を起こしたら、私は今ここにはいないのかも知れません。早々に処分してくれた母親に感謝、というところでしょうか。
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