組み込み型電池と二つの時定数(江頭教授)
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前回の記事で、ノートパソコンを買い換えたら電池が組み込み一体形になっていたことを書きました。スマートフォンなど、最近の携帯情報機器の電池は組み込み型のものが多いのですが以前はそうでもなかった様に思います。
ぱっと思い出すところで携帯カセットプレイヤー、えーっと有名どころではソニーの WALKMAN です。(ワークマンじゃないよ!)WALKMAN には写真の様な専用のニッケルカドミウム電池、通称ガム電池が使われていました。アダプターをコンセントにつないでガム電池を充電。電池を入れると WALKMAN が使える様になります。
これはとても便利で、予備の電池を買っておけば出先で電池切れになっても充電済みのものと交換すれば大丈夫、という使い方ができたのです。では、こんなに便利なガム電池、なんで今は使われなくなってしまったのでしょうか。
えっと、まず確認しましょう。今話をしているのは携帯「カセット」プレイヤーです。カセット、つまりカセットテープが記憶媒体です。テープのリールを機械的に回転させてテープを動かして磁気的に記録された音声データを読み取るのです。必要とされる電力は必然的に大きいので電池の持ちが悪い。もし内蔵蓄電池を使っていたとすると、出先で電池切れになって後は帰って充電するまで使い物にならない、という事態が頻発したと思われます。電池交換ができる、というのは便利な機能と言うより、出先で使う事を考えると必要な機能だったのでしょう。
さらにもう一点。蓄電池の寿命の問題があります。蓄電池は充電と放電をくり返すとやがて劣化して充分な充電量を確保出来なくなってしまいます。組み込み型の電池の場合、製品の寿命より蓄電池の方の寿命が短いと蓄電池の交換が必要となります。組み込み型では取り外しが容易ではありませんからメーカー修理と同等の手間がかかる。ユーザーにとって大きな負担になってしまいます。
さて、組み込み型電池が実用的になるには(1)充電1回での使用時間 と(2)蓄電池の寿命 の二つの特徴的な時間(これを時定数と呼びます)が大切だということが分かります。
使用時間が一日の平均的な外出時間より長くないと、一日の途中で電池切れ、という不快な経験をユーザーに強いることになります。
寿命が製品そのものの寿命より短いと、メーカーによる電池交換という負担をユーザーに強いることになります。
最近の携帯端末に組み込み型電池が多用されるようになったのには使用時間と寿命が充分長くなった、つまり蓄電池の性能が改善されたという事情があるのですね。
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