私が考える「サステイナブル工学」(江頭教授)
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「サステイナブル工学」。本学工学部の一つの特徴として打ち出しているコンセプトではありますが、「サステイナブル工学」は概念としては多くの人が考えているものの、「これがサステイナブル工学だ」という具体的な内容は定まっていないと思います。そこで今回のお題は私の考える「サステイナブル工学」ということにしましょう。
さて、「サステイナブル工学」を考える前に今までの工学、というか現時点での工学とはどんなものかを考えて見ましょう。工学の誕生は産業革命と相前後していて、産業社会の進歩と同期して工学も進歩してゆきました。この産業と工学の進歩の成果は人々を豊かにするという点で疑いようもないほどに明白な成果を挙げています。多少の問題はあるとしても、この進歩の成果を全肯定することがサステイナブル工学の大前提だと私は考えています。
この素晴らしい産業と工学ですが、このままでは環境破壊や資源・エネルギーの枯渇を招くことが分ってきました。このまま継続することはできない。つまり、現状の産業と工学はサステイナブルではないことが分かった。これは1970年代にはすでに広く知られる様になっていた考えです。
ではどうすれば良いか。一つの考え方は環境破壊や資源・エネルギーの枯渇を防ぐために産業と工学の発展を抑制し、さらには後退させようという考えです。このような考えは私は絶対に認められません。そこが私の考える「サステイナブル工学」のポイントです。
環境破壊や資源・エネルギーの枯渇のためいままでの工学はサステイナブルでは無い、ならば進歩を抑制し時代を遡らせるのか?
歴史を顧みると、確かに豊かさの増進には環境破壊や資源・エネルギーの消費が付随しています。しかし、それは必ずしも工学と産業の本質ではない。いままで、工学の研究や製品開発のプロセスで研究者は開発担当者は常に「より良いもの」を生み出すべく努力をしてきました。より豊かな生活に役立つもの、より便利なもの、より高く売れるもの。豊かさの増進が環境破壊や資源・エネルギーの消費の増大にリンクしていたのは研究者や開発者がその一つの軸でしか研究目標を考えてこなかったからではないでしょうか。
人をより豊かにして、なおかつ環境破壊や資源・エネルギーを増やさない、その二つの項目を目標として研究や開発を行うこと。それができれば社会の豊かさを増しつつ、環境破壊や資源・エネルギーの枯渇を防ぐ工学や技術ができるだろう。それこそが「サステイナブル工学」だ、というのが私の現在の考えです。
では、具体的に「サステイナブル工学」では何を行えば良いのでしょうか。それについては稿を改めて述べたいと思います。
「人をより豊かにして、なおかつ環境破壊や資源・エネルギーを増やさない」のがサステイナブル工学の目指す目標です
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