貴金属に関する素朴な疑問 (雑感のような書評のような)(片桐教授)
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今回は江頭先生(2019年5月2日)の「白金カイロの思い出」に触発されたブログです。
小学生の頃は切手を集めていた。中学生になってからはマンガの単行本を集めていた。高校生は受験参考書や問題集を「集めて」いた。こうやってみると私の趣味は全て「収集」系のようだ。
大学生になってからは知識を集めることが趣味のひとつになった。進路先として人類の能力の限界を広げる工学部ではなく知の限界を広げる理学部という学部を選んだ。どのようなことでも新しく知ることは喜びであった。できることなら「全知」になりたいと思う。しかし、それは人間の短い寿命では望むべくもない。「知」は限りないもので、それを集めきりコンプリートすることはできない。
素朴な疑問を覚え、それを調べる勉強は楽しい。しかし、多くの素朴な疑問は、調べても、調べても、答えを見つけ出せない。
私の中学生の頃の疑問のひとつは「なぜ白金カイロは『白金』なのだろうか」というものであった。「金よりも高価な白金を使わなくても、同族のパラジウムやニッケルで同じ機能はだせないのだろうか」というものである。
この素朴な疑問を父(当時、化学の助教授)にぶつけた。「自分で調べてご覧」とはぐらかされた。理科の先生にも尋ねた。「それを理解するには、君の知識(知的な準備)はまだまだ不十分だから、もっと理科を勉強しないさい」とごまかされた。大学生になってからもいろいろな先生に尋ね、いろいろな書籍を読んだけども、満足のいく回答はどうしても得られなかった。
わたしはしつこいタチのようである。45歳を過ぎて、本屋でその答え(の一部)を記述している書籍を見いだした。
左から白金、金、銀、銅のインゴッド(延べ棒)
村田好正「相対論がプラチナを触媒にする」岩波化学ライブラリー(2006).
この書籍の前書きは、燃料電池の触媒にニッケルは使えないこと、ニッケルと白金の触媒能の違う理由はまだ十分には分かっていないこと、その違いの理解には相対論が重要な役割を果たす、ことを述べている。
「アインシュタインの相対性理論?ここに出てくるべきものか?」、と私は思った。読み進めて行った。しかし、十分には理解できなかった。それでも、この中学生の時から30年も抱えてきた疑問は、人類にとってもまだ十分に理解できていない問題であることを知った。
この本のあとがきにはその理解は「まだ不完全な段階である。」とも書かれている。しかし、触媒の作用の理解には化学だけではなく、物理からのアプローチも重要であることを理解できた。
もうひとつ、これはもう50年来の疑問を私は抱えている。それは金属の色である。多くの金属は「銀色」である。これは自由電子による全反射に由来する、と大学で学んだ。しかし、銅と金は色を持つ。これらの金属は電気を良く通す。自由電子をたっぷりもっている。これはなぜだろうと思い続けている。
小学生の頃は単に色の違いを不思議に思うだけであった。しかし、大学生になり科学と化学を学ぶうちに、いや学ぶことにより、ますます疑問は深まっている。
先日、「こんなことを疑問に思っている」と講義後の雑談で学生に話していたところ、
「それで、答えは何ですか」といとも簡単に返されてしまった。
「分からない、全ての疑問に答えがあると思ってはいけないよ」と返した。
この世界はまだまだ疑問に満ちている。
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