白金カイロの思い出(江頭教授)
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子供のころ、小学生ぐらいのころでしょうか。祖父が金属製の容器に入った揮発性の油を小さなケースのようなものに移しかえているところを見た記憶があります。ケースにはふたがあって黒っぽい布が付けてあったような。「一体、何をしているの?」と聞いたところまではおぼろげに覚えているのですが、はて、何と答えてもらったのでしょうか。そこら辺はあいまいです。
この記憶、どれくらい正確なのは今となってはわかりませんが、おそらくケース状のものは白金カイロだったのだと思います。
さて、白金(Pt)はいろいろな反応で触媒として利用されています。これは今でも化学の授業で習うことだと思いますが、私が学生のころには、白金の触媒としての応用例として「白金カイロ」が挙げられていたものです。これを習ったとき「ああ、あれが白金カイロだったんだな」と納得してたのですが、果たして真相はどうだったのでしょうか。
この白金カイロ、構造としては単純で燃料である揮発性の油を入れたタンクに繊維を編んで作った芯が入ったもの。ここまでならアルコールランプのようなものですが炎のでるものを衣服の中に入れるのはさすがに危険です。芯の先端には白金の微粒子がまぶしてあって、燃料と空気中の酸素の反応を触媒することで低温酸化、発熱させるという構造になっています。
これはなかなかのハイテク機器ではないでしょうか。大正末期の発明品で、それ以前には木炭を無炎燃焼させる方式のカイロ(灰式カイロ)が使われていたのですが、固体燃料は品質のコントロールが難しそう。一方で白金カイロでは燃料が液体なのがメリットですが、適切な発熱量で触媒反応を継続させつづけるのはかなりの調整が必要なはずです。
さて、いまでは鉄の酸化反応による発熱を利用したカイロ、いわゆる「使い捨てカイロ」が広く用いられていて…
などとブログの記事を書こうと調べていてびっくり。なんと「白金カイロ」は今でも販売されているのですね。それどころか「灰式カイロ」も販売が続いているそうです。
白金カイロは継続使用時間が使い捨てカイロより長い、というメリットがあります。また、灰式カイロは燃焼に際してH2Oが発生しないため露結を嫌う場合(寒冷地での撮影時のカメラレンズの保温など)に用いられているそうです。
カイロの様にエンドユーザーが身に着けて使用するものは、その使用感や使い勝手に対する好き嫌いがはっきりしているのでしょう。価格や流通の多寡だけで簡単に一つの方式に統一されるものでもないのですね。