「水銀マノメータ」の墓標(江頭教授)
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水銀は常温で液体である唯一の金属元素であり、液体でありながら非常に密度が高いこと、電気をよく通すことなど化学的な性質以外でも特徴のある特性を持っていて化学の研究室では良く使用されていました。とはいえ有毒な元素でもあることからその使用に制限をかけた方が良い、という考えから日本国内では「水銀汚染防止法」が、国際的には「水俣条約」による規制が開始されています。(この辺の事情については本ブログの片桐教授記事「「安全工学」の講義 第10回 化学の安全 有害性(5) 水銀問題-1(水俣条約)」あるいは「「安全工学」の講義 第10回 化学の安全 有害性(6) 水銀問題-2(水銀の廃棄)」を参照してください。)
と言うわけで、本学の応用化学科でも随時水銀の処分を進めてきました。古い伝統のある化学系の研究室では、ラベルの読めない試薬瓶や誰も開けたことのないロッカーなど、忘れ去れた水銀がありそうな場所や、下水の一部に謎の水銀だまりができているケースなどが有ったりします。比較的最近できた本学の応用化学科は、その点では大過なく水銀を含んだ機器類を集めることができました。
本学科の水銀処理も大詰めなのですが、大口で残っていたのが学生実験室。なかでも数・量ともに大きかったのが圧力計(マノメータ)中の水銀です。
空気の発見で有名な「トリチェリの真空」の実験でも水銀が使われていますが、これはそのまま大気の圧力の測定原理にもなります。大気圧は760mmの水銀柱による圧力とつり合っている、という結果は1気圧は760mmHgと表現されました。つまりmmHgが圧力の単位として利用されることとなったのです。最近でこそPaなどSIが主に使用されますが、長い間mmHgが使われていたのは歴史的な経緯を記念して、というよりは水銀圧力計を使用する実用上の利便性からだったと考えられます。
水銀をつかった圧力計(=マノメータ)は水銀の高い密度のおかげで比較的小さなサイズで大きな圧力差を測定することができましたから、化学の実験で減圧条件を利用する場合には使い勝手の良い道具だったのです。本学応用化学科の設立時にもそれなりの個数の水銀マノメータを購入しました。とはいえ、このまま水銀入りの器具を保持し続けることは難しい、ということで今回廃棄処分にすることとなりました。
写真は廃棄予定のマノメータ。その形状から「位牌型マノメータ」と呼ばれています。この位牌型マノメータは残念ながら処理業者に引き取られてゆく運命。位牌はおろかお骨も残りませんから、墓標をつくって供養してあげるのも難しそうです。
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