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平成時代の二酸化炭素排出量(江頭教授)

| 投稿者: tut_staff

 平成時代、広くとれば1989年から2019年までの31年間ですが、年度で考えて1989年度から2018年度までの30年間と考えることにしましょう。この期間の歴史を振り返る、という話題は特にこの連休の初めにはたくさんあったと思いますが、ここではCO2の排出量という観点で平成の時代を振り返ってみたいと思います。

 まずはデータから。以前紹介した「全国地球温暖化防止活動推進センター」JCCCAのサイト、特に「すぐ使える図表集」のコーナーにそのものずばりのデータが出ていました。ただしデータは1890年度から2016年度までで前後1,2年ほど範囲が狭くなっています。グラフは左メモリの棒グラフが日本の総排出量、右目盛りの折れ線グラフは一人当たりの排出量です。グラフの縦軸は左右どちらも0よりかなり高い値からスタートしていることに注意してください。全体では一割程度の変動が強調して表示されています。

 さて、このデータをみてまず気が付くのは2009年度を中心とした大きな谷でしょう。これは2008年の世界的な金融危機、いわゆるリーマンショックの影響です。これをみるとリーマンショックが本物の危機であったことがよくわかります。

 これに比べるといわゆる日本のバブル崩壊(1991年~1993年)はCO2排出量にそれほど大きな影響を与えていないことがわかります。排出量は1998年度、平成10年度にはやや大きな谷間が生じていますが、2008年にリーマンショックの影響を受けるまでずっと増える傾向にあったこのです。特に平成最初の10年はかなり速いスピードでCO2排出量が増し、次の10年では増加のスピードが落ちた、とみることができるでしょう。

 

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出典)温室効果ガスインベントリオフィス
全国地球温暖化防止活動推進センターウェブサイト(http://www.jccca.org/)より

 経済的には平成時代の始まりとともに起きた不況、いわゆるバブル崩壊によって日本の経済成長は低成長に陥ったと記憶されています。しかしCO2の排出量に現れる実際の生産・消費の人間活動は成長を続けていたのです。

 特に平成最初の10年は経済的には不況期であったのですが生産・消費活動は活発化した時代でした。この期間、個人の給料や会社の利益は増えなかったものの、一人一人が消費できる物財は増え、商品の生産は増加していたのでしょう。バブル期に蓄えられた金銭的な豊かさが実際の生活に反映されるようになった期間、と言いかえてもよいかもしれません。

 一方、平成最後の10年間には、リーマンショックによる大きな落ち込みとそれからの回復、という特殊要因がまず一つ。もう一つは2011年の3.11の震災とそれによる原子力発電所の停止が大きな影響を与えています。2013年には最大の温室効果ガス排出量を記録し1億3千万トンを超えるCO2が排出されました。

 その後、CO2排出量は減少に転じるのですが、これは3.11のショックからの回復という面と同時に、同じく3.11ショックに誘発された省エネルギー、新エネルギームーブメントの影響もあるのでしょう。後者の効果は年がたつにつれて明白になってゆくものです。令和の時代の統計はよりはっきりした傾向を示してくれるでしょう。

 まとめると、平成という時代はCO2の排出量が増加傾向から減少傾向へと切り替わった時代だった、と言えるのではないでしょうか。CO2の排出量の絶対値は一割程度しか変化していませんが、傾向が逆転したという意味では大きな変化が実現した時代だともいえるでしょう。

 

 

 

江頭 靖幸

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