なぜ雷が「稲妻」なのか?(江頭教授)
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今回のお題は表題とおり、なぜ雷が「稲妻」と呼ばれるのか、についてです。なんで雷が「稲の奥さん」なのでしょうか?
理由は「雷があると稲の実りが良くなるから。」です。「奥さんと実りに何の関係が...」というと難しい話になりそうですが、「雷と実りの関係」に注目すると少し化学の世界に近づいてきます。
雷は大気中での大規模な放電現象であり、そのさい普通には起こらない化学反応も起こります。おそらく窒素分子の分解も起こる。通常の環境ではほぼ起こることのない窒素分子の活性化によって窒素酸化物などが生じ、それが窒素肥料の役割を果たすことで植物の(ここでは稲の)成長が良くなる、という訳です。
窒素原子は大気の8割を占める窒素ガスの形で自然界に大量に存在しています。同時に生物の体を構成するタンパク質の基本要素、アミノ酸に必ず含まれている元素でもありますが、窒素ガスの分子はきわめて安定で植物はそれを直接吸収することはできません。(動物もですが。)窒素分子を分解してアンモニアや硝酸イオン、亜硝酸イオンなど、植物が利用できる形態に変化させる機能は自然界ではマメ科の植物の根に共生している根瘤バクテリアと呼ばれる細菌の作用が知られている程度です。雷の放電、つまり稲妻はもう一つの自然産の窒素肥料なのです。
ハーバーボッシュ法による窒素固定技術が開発される以前、水田は窒素肥料不足の状態にあったはずですから、雷によって生じた窒素酸化物、窒素肥料を含んだ雨の降った場所は他より目に見えて稲の育ちが良かったのでしょう。
さて、以上の話は授業などで折に触れて説明しているのですが、今回ちょっと調べてみて驚いた点が一つ。
「つま」という言葉は本来性別に関係なく用いられる言葉だったそうです。と言うことは妻とか夫というより配偶者という言葉の方が正確なのでしょう。今回の書き出しは
なんで雷が「稲の奥さん」なのでしょうか?
ではなく、
なんで雷が「稲の配偶者」なのでしょうか?
とするべきだったようです。
なお、現在の農業では雷による豊作、という現象はおそらく顕著には表れていないと思います。現在の水田には既に充分な量の窒素肥料が供給されています。これもハーバーボッシュ法のおかげ、という訳ですね。
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