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「実学」じゃなければ「虚学」なのか?(江頭教授)

| 投稿者: tut_staff

 ラジオのニュース解説番組を聴いていると耳慣れない言葉が。「虚学」が、どうやら「実学」以外の学問、という意味で使われているのです。最初は弁護士の方がしゃべったので「けったいな表現をする人だなー」と思ったのですが、ラジオのパーソナリティーの方まで「虚学は実学の反対」という解説を付けたので二度ビックリ。そんな言葉があるんだ!

 うーん、余りにも変だ。そう思って内閣府のホームページで「虚学」という言葉を検索してみました。該当は11件のみ。ちなみに同じ条件で「実学」を検索すると468件がヒットします。

 さて、この11件のほとんどは「実学」に対して「虚学」という言葉をその場の思い付きのように使っているものです。例外は日本学術会議の「新しい学術の在り方 ― 真の science for society を求めて ―」という平成17年の第19期日本学術会議「学術の在り方常置委員会」の審議結果報告書ですが、この中では「現在では実学と虚学は対立する概念とは言えない。」と明確に断り書きがついています。

 やっぱり「虚学」という概念があるとしても一般的ではなく、「実学とは言えない学問」を「虚学」と言い換えているだけではないでしょうか。実学だってそんなに定義がハッキリしていないのに、実学以外というのはもっとぼんやりした表現です。そして、端的に言って「虚学」という言い方は注意を要する表現であり、これが教育行政に関わる議論において専門用語として定着することは避けるべきことだと私は思います。 

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 だって、「虚学」と言われてネガティブなイメージを持たない方が無理というものです。(いや、数学で虚数に馴染んでいるひとはOKなのかな?)

 教育行政で実学をどの程度重視するべきか、という議論が「実学」vs「虚学」という言葉で表現されてしまったら、それだけで冷静な議論ができなくなってしまうと思います。ですから、ラジオでコメントした弁護士の方はこんな言い方をすべきではないし、パーソナリティーの方もこの言い方は訂正するべきだったと思います。

 そもそも、「実学」と「それ以外」と言うのと、「実学」と「虚学」、実質的に表しているものは同じですし、わざわざ「虚学」という言葉を使う必要がどこにあるのでしょうか。たった数語の発音を節約するために議論にバイアスをかけるのは無意味なことではないでしょうか。

 

PS1:

 要するに「バベル17」か!ということ。でも、「バベル17」こそ虚学(言語学)の結晶でしょうに。

 

PS2:

 昔、有名政治家(誰とは言いませんが)がインタビューで

全知全能で頑張る」

という言い方をしていた記憶がありますが、これは明らかに

全身全霊で頑張る」

の間違いですよね。「全知全能で頑張る」の後に「そう、僕は新世界の神になる」くらい言ってくれたら日本語として正しい用法ですが、政治家はすぐに辞めて頂きたいところです。

 正しい日本語云々と小うるさいことは言いたくありませんが、あんまり勝手に日本語を拡張されてもいらぬ混乱が増えるばかりではないでしょうか。

 

江頭 靖幸

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