金星の温室効果(江頭教授)
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「温室効果が問題だ!」と言う人がいますが、では温室効果がなかったら地球はどうなっていたのでしょうか。太陽から来る光のエネルギーで暖められた地球から輻射熱(いわゆる赤外線です)としてエネルギーが逃げる、と考えてエネルギーバランスから計算すると地球の温度は零下20℃程度。ものすごく寒くて多くの場所は人間が生活するのには不向きな場所となってしまうでしょう。地球が現在のように適度に温暖な状態にあるのは、実は大気中の二酸化炭素や水(水も温室効果ガスです)の温室効果のおかげなのです。
ですから「温室効果」そのものが問題ではありません。温室効果の度合いが変化する(それも人間活動によって)ことが問題なのですね。
さて、この温室効果、一体どの程度までの温度上昇を起こすのでしょうか。地球を実験台にすることはできませんが、他の惑星と比較することは可能です。水星、金星、地球、火星を比較すると太陽に近いほど温度が高いと考えられるのですが、実は金星の表面温度は400℃程度で水星よりも高温なのです。金星では強い温室効果が起こっているからです。
金星の大気圧は90気圧程度。その大部分は二酸化炭素です。水も存在しますが400℃ともなればこの大気圧でも完全に蒸発して気体になっています。濃密な二酸化炭素の大気と液体にもどることのない水による温室効果で400℃となった世界、金星では人間はとても生きてゆくことはできないでしょう。
さて、金星の状態を念頭に地球について考えてみましょう。二酸化炭素の排出量が増えて地球温暖化が進行する。温度が上がると水蒸気が増える。水(水蒸気)は温室効果ガスなので、その効果によってさらなる温暖化が進行し...、と事態が進行したら温室効果による温度の上昇には限りがないのではないか。ひょっとして地球も金星のような(真の意味で)人の住めない世界となってしまうのではないでしょうか?
これは「暴走温室効果」と呼ばれる現象で、これが現実となったら本当に「人類滅亡」となるでしょう。
実は私が地球温暖化について真面目に考えるようになったのはこの「暴走温室効果」の概念に触れたからでした。(大学生のころだったと思います。)実のところ、暴走温室効果による地球の金星化とそれによる人類滅亡、というSF的な現象は地球の位置から考えてありそうもないことだと考えられてる、とのことでした。それを知って昔の私はほっと一安心したものです。
さて、それから30年以上の時を経て地球の気象に関する理解は格段に進歩しました。現状で「暴走温室効果」はどのように考えられているのでしょうか。ちょうど江守正多先生がこちらの記事で簡潔に説明してくれています。
どうやら暴走温室効果で人類滅亡、というシナリオはやっぱり非現実的なようです。とはいえ「人類滅亡」までは行かなくても「人類文明が終焉」 する可能性はあるわけですから温暖化対策が喫緊の課題であることに変わりはありませんね。
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