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「2050年人類滅亡!?」釣りタイトルもほどほどに、という話(江頭教授)

| 投稿者: tut_staff

 少し前の話になりますが、ニューズウィーク日本版のウェブサイトに「2050年人類滅亡!? 豪シンクタンクの衝撃的な未来予測」という正に衝撃的な記事が掲載されていました。

 

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 この記事は本当に衝撃的でした。なぜならこの刺激的なタイトルと象徴的なイラストの直下に

<オーストラリアのシンクタンクが、今後30年の気候変動にまつわるリスクを分析し、最悪の場合、人類文明が終焉に向かうかもしれないという衝撃的な方向書を発表した>

という要約があるのです。

 「人類滅亡」と「人類文明が終焉」は全く違う話やないかー!

という、誰かをハリセンで叩いて思いっきりツッコミを入れたくなるような衝撃のボケ展開には正直愕然としてしまいます。私はニューズウィーク日本版はまっとうなメディア、もっというと権威のある情報源だと思っていたのですが、これは酷い。いくら何でも酷すぎる釣りタイトルだと思います。

 人類滅亡というイメージはおそらく「人類」という概念が広がった当初からある、といえるほど古いイメージでしょう。それが現実感をもって語られる様になったのは核の脅威が切迫した冷戦時代であり、そのイメージは映画「渚にて」のような作品でも印象的に描かれていました。(ちなみに「渚にて」は1959年の映画です。)

 一方、「人類文明が終焉」に向かう、という予測は以前このブログでも紹介したローマクラブの「成長の限界」で示されたシナリオと類似のイメージです。ただ、「成長の限界」は1972年の出版だということを少し思い出してもらいたいところです。

 今回紹介されていたオーストラリアのシンクタンクの未来予測は気候変動が大部分の人々の想定以上の被害をもたらし、その影響を社会が受け止め切れずに人類文明が終焉に向かうかも知れない、という予測を示しています。これは「成長の限界」では資源の枯渇や汚染物の蓄積と言った漠然とした言葉で表現されていた人間活動による環境への負の影響を、より具体的なものとして示した、という意義はあると思います。ですからこの記事のタイトルが「2050年文明崩壊!? 豪シンクタンクの衝撃的な未来予測」であったらな新規性はあるものの予想の範囲内の記事だったでしょう。

 今回のタイトルにある「人類滅亡!?」を見て、私は気候変動によって人類が滅亡するような(少なくとも私は知らない)全く新しい危機の可能性が示されているのかと思ってしまいました。それが記事のはじめの1文でいきなりずっこけたという次第です。

 まあ、ここで本当に衝撃的なのは日本版とはいえニューズウィークというレベルのメディアですら、「人類滅亡」と「人類文明が終焉」とを区別しない程度の認識で報道を行っているという事実でしょうか。

江頭 靖幸

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