世界のエネルギー起源のCO2排出量の動向 ―2016年アップデート版―(江頭教授)
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(以下の記事は2018年7月3日の記事「減少する世界のエネルギー起源のCO2排出量」のアップデート版です。)
地球温暖化の作用をもつガスはいろいろありますが、人間の活動によってもっとも大量に排出されていて、地球環境にも大きな影響を与えているガスはCO2であるということは良く知られています。なぜCO2ガスが排出されるのか、それは現在の社会では十分なエネルギー供給のためには化石燃料の利用が不可欠だから、ということも知られていると思います。
では、その化石燃料から発生するCO2ガスの量はどのぐらいなのでしょうか。エネルギーに関する国際機関のIEA ( International Energy Agency ) から正にその点についてまとめた資料が出ています。
”CO2 EMISSIONS FROM FUEL COMBUSTION”
この資料はIEAのWEBサイトのこのページに記載があります。正規の報告書はダウンロード販売されていますが、概要(OVERVIEW)は無料でダウンロードできます。(IEAへの登録が必要。)
2018年版の資料では2016年までのデータが整理されています。世界の総排出量は 32.31 GtCO2 、つまり 323億1千万トンとなります。日本の温室効果ガス排出量の約30倍で、やはり非常に大きな値というべきでしょう。
排出量の2015年の値は32.28Gtで2016年の値はごくわずかに増加していますが、ほぼ変化無しと言って良いでしょう。昨年度報告された2015年の排出量はと比較すると 0.1% の減少だったのですが、その傾向は続かなかったということのようです。
同資料の概要から以下の図を見てみましょう。
この図は石油、石炭、天然ガスの三つの主要な化石燃料と廃棄物からのCO2の排出量が2016年でどれだけ変化したかをMtCO2の単位で棒グラフで示したものです。石油と天然ガスからの排出量が増加してるのに対して石炭からの排出量が減少し、両者がほぼつり合っているとが分かります。棒グラフ中の数字は変化率。石炭の減り幅のほうが天然ガスの増加分よりも大きいのに変化率では石炭が-2%、天然ガスが3%と数字の大きさが逆転していますが、これは石炭のもとものと排出量が大きいことによります。
2015年にCO2の排出量が減少し、2016年も微増に留まったのは石炭の利用が減り、石油や天然ガスへの移行が進んだことが原因だったのですが、それでも石炭は大きなエネルギー源でありつづけています。
こちらのグラフは石炭、石油、天然ガスの比較を地域別に示したものです。石炭の利用が減っているのはアメリカ、中国、ヨーロッパであることが示されています。中国とヨーロッパでは石炭から天然ガスや石油への化石燃料間でのエネルギー転換が多いことが示されていますが、アメリカでは化石燃料の利用自体が減少していることが分かります。(このデータが2016年のものであることに注意してください。具体的に言えばトランプ政権前、オバマ政権時代の動向を示しています。)この図に示された地域の中では「中国以外のアジア地域」では石炭、石油、天然ガスの全ての化石燃料で純増となっています。これに図に示されていない地域のCO2を排出を加えると石炭利用の減少による削減はほとんど帳消しになっているわけですね。
石炭は石油や天然ガスにくらべて発熱量当たりでより多くのCO2を排出します。石炭から他の化石燃料への転換はCO2の排出削減に有効な手段なのですが、世界のエネルギー需要の増加という傾向を越えることができなかった、というのが2016年の状況だと言えるでしょう。
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