省エネを実現する仕組み「トップランナー制度」ーその2ー (江頭教授)
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一般の人が省エネルギーや地球温暖化対策に貢献したいとき、どうすれば良いか。一つは「我慢すること」ですが、それには限界がある。可能な範囲で我慢したとして、さらにエネルギー消費を減らすには省エネ機器を導入するのが有効だろう。
ここまでは誰もが納得できる考えではないでしょうか。でも省エネ機器を入手するためには、まず省エネ機器が売っていることが必要です。そのため政府は省エネ機器の開発を促す政策をとっていて、それが「トップランナー制度」です。
トップランナー制度ではいろいろな機器の供給者に対し、製品ごとの省エネルギーの目標値を示し、その目標値を達成するように促しています。前回はその目標値の設定の仕方について、省エネルギーの目標値が製品のそれ以外の価値に対する評価に歪みを与えないように定められている事を説明しました。同じ機能の製品には同じ目標値を設定する。逆に言えば機能が違えば目標値も変わる、ということです。例えばTVについて、全てのテレビに同じエネルギー使用量を目標値として設定してしまうと小さいテレビの方が有利になってしまう。だから目標値はサイズ毎にエネルギー利用効率で決める、といったことです。
さて、ここまでの話は相対的な目標値の設定に関するお話です。では目標値そのもの、絶対的な値をどのように決めるかというのが今回のお題です。
まず、前提として目標値達成するとはどういうことか。目標値を「合格の基準」のようなものだと考えてみましょう。たとえば「テストで60点以上は合格、60点未満は不合格」という決め方。この場合、目標値は60点で、最低の基準を定めています。全ての学生がこの成績を満たす必要があり、少しでも基準を下回ればその科目は不合格になります。
「トップランナー制度」も当然そうなっている、と思われる方も多いかと思いますが、実は「そのメーカーの製品が平均で目標値をクリアすればOK」という制度になっているのです。
学校で言えば「クラスの平均点が60点以上なら全員合格」とか「期末試験の平均点が60点以上の人はその学期全部合格」とかでしょうか。なんとも変な制度の様にもみえます。でも「トップランナー制度」の目的は目標に到達しない製品を市場から追い出すことではありません。あくまでのメーカーによる省エネ機器の開発を促すことなのです。平均が目標を達成することができたなら、そのメーカーには目標レベルの製品を作る能力がある、ということになりますよね。
(図は「省エネ性能カタログ」(資源エネルギー庁)より)
さて、この前提で再度目標値の決め方について。もったいぶるのはやめて答えを言ってしまうと、「目標値は現時点で最高の省エネ性能を達成した製品を基準として決める」のがトップランナー方式です。要するに「最高の省エネ性能を達成した製品」=トップランナーを目指して皆で頑張ろう、という制度なのです。
トップランナーを目標値にすれば、まず「そのレベルの製品を製造可能である」ことは明かです。目標値を設定される業界側が技術的な限界を主張して規制に抵抗する、というのはありがちなことですが、実際製品になっているものがあれば、論より証拠、となるわけですね。
もちろん、トップランナーは他社追い抜いたからこそトップランナーなのですから、他社がトップランナーに追いつくまでには時間が必要です。トップランナー制度では目標値が発表されてからそれをクリアするまでに猶予期間が設定されています。その期間内にトップランナーに追いついてください、ということです。
猶予期間が終わって皆がトップランナーのレベルに到達したらどうするのでしょうか。その時点にはもっと優れた省エネ性能の製品が世に出ているに違いありませんから、それが次のトップランナーになり、新しい目標と新しい猶予期間が設定されます。これをくり返すことで省エネ機器の開発を進めよう、これが「トップランナー制度」なのです。
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