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聖火と炎色反応(江頭教授)

| 投稿者: tut_staff

 7月24日の朝、新聞の一面にオリンピックについてのニュースが。そうか、オリンピックまであと一年か。で、今回の聖火は水素燃料で灯すのだとか。

 水素じゃ炎が見えないじゃん。

まあ、化学の先生ならだれもが突っ込むところです。

 水素が燃える際の炎は薄い青色で、いわゆる聖火のようなオレンジや黄色の炎にはなりません。あのオレンジ色は実は炎の中の炭素の粒が発光しています。なんで炭素の粒が?それは燃えるガスに炭素原子を含む分子が含まれていて燃焼に際して炭素が粒子として析出するのです。

 高校生の皆さんの中にも都市ガスを利用したブンゼンバーナーを扱ったことがある人がいるかもしれません。空気不足の状態ではオレンジ色の炎がでます。炎の内部は酸素不足の部分があって、そこで炭素が析出。その粒子が光るわけです。空気の供給を増やすにつれてオレンジ色は消え、青白い炎になりますが、これは炎の中の酸素不足の部分がなくなったことを反映しているわけです。

 水素が燃料の場合、もともと炭素が含まれていない以上、炭素の析出もなく、炎に色がつかない。結局青白い炎で聖火と言うより昼行燈になるのでは…。

 記事の続きには「添加剤を使うことで、赤や紫、緑など様々な色の炎を作り出せる」と書いてありました。

 

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おっと、件の新聞記事はネット非公開になっていました。

 

 添加剤って...そうか、炎色反応か。

 炎色反応はいろいろな金属を含む化合物を青白い炎の中に入れると金属の固有の色を発する、という現象で高校の化学の教科書にも載っているので知っている人も多いかと思います。花火の色なども炎色反応を利用していますから、炎色反応という言葉を知らない人でも実際に目にしたことはあるでしょう。

 炎色反応の有無、炎色反応を起こす場合の色は元素によって決まっています。ですからサンプルの中にある元素が入っているかどうかの判定(定性分析と言います)で利用されることもあります。ストロンチウムの赤、ナトリウムのオレンジ色、銅の緑などそれぞれの元素の色を、試験対策で覚えたひともいるのではないでしょうか。逆の言い方をすれば、化合物の形を工夫しても色に変化を与えることはできない、ということなのですが、複数の元素をまぜれば見た目では全ての色を作り出すことが可能ですから聖火を利用したいろいろな演出が可能になりそうですね。

 

 なお、ネットで検索すると以下の様な記事がヒットしました。

 

 

Photo_20190724121001

 

 こちらの記事をみると今回の「水素火炎+炎色反応による聖火」はずいぶん前にエネルギー業界から提案があったアイデアのようですね。

 

江頭 靖幸

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