省エネを実現する仕組み「トップランナー制度」ーその1ー (江頭教授)
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サステイナブルな世界を作るため、いま一番大きな問題は化石燃料由来の二酸化炭素の放出による気候変動への対応である。これには多くの人が同意してくれるのではないでしょうか。では、私達が個人として実践できることは何か。すぐ思いつくのは省エネ機器の導入なのですが、これを政策的に進めるにはどうするのか、というか今現在どのように省エネ機器の導入が進められているのか、というのが今回のお題です。
たとえば「新しいテレビを買う」場合、省エネのためにどうすれば良いのでしょうか。今と同じサイズのテレビを買うより、より小さいテレビを買う方が省エネですよね。大型テレビを買おうなんてもってのほかです。でもちょっと待ってください。そもそもテレビってそんなに必要なのでしょうか。これを機にテレビをなくしてしまった方が省エネですよね。
政府としては省エネルギーなテレビの開発を促すべきですが、それ以上にテレビの廃止をすすめるべきではないでしょうか。電波利用を規制してテレビ放送ができないようにすれば簡単に目的が達成できます。
これは凄いアイデアです。なんでテレビに限る必要があるのでしょうか。エネルギーが消費されるのはそもそも人間がいるからです。一番良いのは人間そのものを減らすことです。「全宇宙の半分の生命を消し去る」のはちょっと大変そうなので、さしあたり人口を半分にしてはどうでしょうか。それを達成したらもう半分。さらに半分にして...。
まあ、冗談はさておき、このように考えると「地球に優しくする」ことが目的であっても政府にはできないこと、やってはいけないことがあることが分かると思います。
「省エネ機器を普及させる」という政策目標が議会の承認を得たとして、その目標を実現する際に、人々の他の面での選択(テレビを見るかどうかから、どんなサイズのテレビを所有するかまで)に影響を及ぼしてはならない。少なくとも影響を最小限に抑える努力をしなければならないのです。
さて、テレビの省エネ化を進めるために、実際はどのような政策がとられているのでしょうか。資源エネルギー庁が公開している「トップランナー制度」という資料に基づいて紹介しましょう。
まず、前提としてテレビなどの機器のメーカー(輸入されるケースをふくめれば供給者です)には自社の製品の消費電力を目標値まで抑える努力をすることが求められています。目標は時と共に厳しく設定されるので新しいテレビは必ず古いテレビよりも省エネになってる。ですから、消費者は普通にテレビを買い換えてゆけば自然に省エネに貢献できるようになっているのです。
さてここで省エネ性能の目標値をどのように設定するか、が問題になります。
上の図の左側<数値による目標設定>では15 ~ 21インチを1区分として一つの年間消費電力の目標値が設定されています。この場合、15インチなら余裕で目標値を達成できるとしても21インチで目標達成は難しいでしょう。そうなると市場から21インチのテレビが無くなってしまい、皆が15インチのテレビで我慢しなくてはなりません。これは省エネ危機の導入政策が、どんなサイズのテレビが良いのか、という個々人の自由な選択を妨げてしまう結果だと言えるでしょう。
そこで、実際にはテレビのサイズによって変化する目標値が設定されています(図の右側、<関係式による目標設定>)。
これは比較的分かりやすい例なのですが、省エネ性能の目標値の設定は他にもいろいろなケースに対応できるように考えられています。つまり規制の目標設定には満たすべき条件がある、ということです。では、そもそもの目標値の実際の数値はどのように決められているのでしょうか。これが「トップランナー方式」という名の由来なのですが、その説明はまた次回としたいと思います。
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