電気自動車はガソリン車よりクリーンなのか(江頭教授)
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まずは前回と同様、「電気自動車はガソリン車よりクリーンなのか」と問うなら、まずクリーンとはどういうことかを明らかにする必要がありますよね。クリーンということが窒素酸化物(NOx)や硫黄酸化物(SOx)を出さない、ということなら「YES」ですが、今回は温暖化に注目して、「電気自動車はガソリン車よりCO2排出量が少ないか」と言い換えることにしましょう。これでも問いとしてはあいまいなので、もっと限定的に「化石燃料をエネルギー源とした場合」とします。要するに石油を出発点として自動車が走るという結果を得るとして、自動車と電気自動車のどちらが効率的なシステムなのか、という問いに言い換えることができるでしょう。
いつものことですが答えは「ケースバイケースです」となりますが、まずは現在のガソリン自動車のシステムとくらべて電気自動車のシステムのどこにメリットがあるのか、と考えてみたいと思います。
ガソリン車の基本部品はエンジンで、ガソリンが燃焼するときに放出されるエネルギーを直接運動に変えています。つまり、
化学エネルギー → 運動エネルギー
の1段階の変換システムです。
一方、電気自動車の基本部品はモーターで電気を運動に変える。化石燃料がエネルギー源だとすると電気自動車は化石燃料から電力へ変換する発電所ももう一つの必須要素だといえます。そう考えると、
化学エネルギー → 電気エネルギー → 運動エネルギー
となり、電気自動車は2段階のエネルギー変換を必要とするシステムです。より正確にはバッテリーでのエネルギー変換も考えて、
化学エネルギー → 電気エネルギー → 化学エネルギー → 電気エネルギー → 運動エネルギー
という充電と放電を加えた4段階のシステムというべきかもしれません。
一般的にはエネルギーの変換にはロスがつきものですから、変換の段階の数を少ない方が効率的なシステムになると期待できます。そう考えるとガソリン車の方が効率的で結果としてクリーン、ということになりそうです。
これは実際にもその通りで「下手に作られた電気自動車はガソリン車に及ばない」「ガソリン車ほどクリーンではない」ということはいくらでもあるでしょう。ポイントは電気自動車をうまく作れば、うまく作られたガソリン車より効率的になる、と期待できるかどうかです。エネルギー変換の段階が多くても、それぞれの段階の変換効率は100%に近ければトータルの効率も高くすることができるのですから、それぞれのエネルギー変換の段階をどの程度改良できるのかが重要です。
発電所での化学エネルギーから電気エネルギーへの変換では燃焼温度の高温化や多段利用による高効率化の余地がありますが、ガソリンエンジンでのエネルギー効率の効率を上昇させることを考えると制限要因が非常に多い。車に乗せる必要性からサイズや重さに厳しい制限がある上に常に振動にさらされていながらメインテナンスも最小限に抑えることが求められますし、価格の制限はさらに厳しいものです。そう考えるとガソリン車の効率をさらに向上させるのは難しいでしょう。一方でモーターによる電気エネルギーから機械エネルギーへの変換効率はすでに高いレベルにありますから、ガソリン車に対して遜色のない効率的な電気自動車をつくることができると期待されているのです。
さて、こう考えると「電気自動車はガソリン車よりクリーンなのか」という問いの答えは一般的には「ケースバイケース」ですが、高度な技術があればYESと答えることができると思います。
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