なぜ農場に木を植えるのか(江頭教授)
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オーストラリアへの出張のお話を続けましょう。前回、農場の中に造った植林サイトのドローンによる映像を紹介したので、今回はそもそも「なぜ農場に木を植えるのか」について解説したいと思います。
まず、下の画像は件の植林サイトのGoogleEarthによる映像です。写真中、道路が左下から右上に通っているのが分かると思います。私達の植林サイトはこの道の図中で下側(南側)の中央付近に造られています。(GoogleEarthにはまだ反映されていません。)
この植林サイトの道路をと横切って上側(北側)に写真で色が変わって見える場所が見えると思います。この場所の状況が下の写真です。
植林サイトから道路に向かってやや傾斜があり、その谷間がこの写真の場所です。水が集まっているのですが同時に塩害も起こっていて木が枯れしまったのです。
農場のなかの高度が低い部分に塩水がたまりはじめて塩害が起こる、しかもその塩湖が大きくなる傾向がある、という現象はこの西オーストラリアでは大きな問題となっています。
低い場所に水が集まるのは分かるとして塩はどこから来るのでしょうか。この現象はオーストラリアが開拓されたとき森林を伐採して農場に作り替えたことが原因だと言われています。
森林は地表面をほぼ覆い尽くしていて深い根で水を吸収して一年中大気中に蒸散させています。開拓前は、この状態で降雨と蒸発散とがつり合っていて地下水のレベルもその状態で安定していたと考えられています。
ところが開墾のあとはどうでしょうか。小麦やキャノーラの様な作物は樹木に比べて根も浅く、一年の半分しか土壌の水を吸収しません。降雨と蒸発散のバランスが崩れて地下水位が上昇、地中の塩類を溶かした水が地表の低いところに水面が顔をだすと水だけが蒸発して塩が濃縮されて塩湖となってしまうのです。
このような塩害は「セカンダリーサリニティ」と呼ばれて西オーストラリアで問題となっています。
この問題の一つの解決策と提案されているのが農場の中に木を植林して蒸発と降雨のバランスを回復しよう、という方法です。単純ですが有効であることが示されているのですが、農地の中に植林をすると農場としては生産減となってしまいます。この点が問題となって現時点では実用化できずにいるのですが、これをどう解決するか。それが我々の研究のポイントなのですが、その詳細はまたの機会に紹介したいと思います。
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