樹木の二酸化炭素固定量はどうやって測定するのか?(江頭教授)
| 固定リンク 投稿者: tut_staff
今回もオーストラリア出張でのお話。今回はフィールドで木を切り倒した話を紹介しましょう。
今回に出張の大きな目的の一つがこの「伐倒調査」でした。チェンソーで木を切り倒して枝と幹をバラバラに。枝から葉を一つ残らず引きちぎって…、動物で考えれば猟奇的な行為ですが樹木が固定している二酸化炭素の量を測るためは必要な作業なのです。
皆さんは「一本の木を植えれば○○kgの二酸化炭素を大気中から取り除くことができます」とか「この森には○○トンの二酸化炭素が固定されています」と言った話を聞いたことはありませんか?でもどうやってその量を測ったのでしょうか。
手に乗るような小さなものなら重さを量って組成を分析すれば炭素の含有量を決定できます。これに44/12を掛ければ固定されている二酸化炭素量を求めることができます。一方、量が多くても均一なものなら一部をサンプリングして同様の手順で二酸化炭素量を決定できるでしょう。
でも森や木についてはどうすれば良いのでしょうか。
木を切り倒して全部の重量を量る。単純ですが最後はこれしかないでしょう。実際、伐倒調査では切り倒した木をバラバラにして吊りはかりで重さを求めました。結構大変な作業ですが、これだけで終わりではありません。
木の重量が分かっても木を作る物質の組成、炭素の含有量を知らなければ二酸化炭素量の固定量を計算することはできません。樹木の組成に一番影響するのは水分の多寡ですが、これは時々刻々変動します。このため本当の意味での組成を知るためにはまず木を乾燥させる必要があります。乾燥した木に含まれる炭素の割合はあまり変化しない(大体半分が炭素です)ので、これで一本の木の二酸化炭素量の固定量を求めることができます。
伐採した木を乾燥させて重量を量る。これで二酸化炭素の固定量が分かるわけですが、森についてはどうしましょうか。森の木を全部伐採して…これは膨大な手間がかかる上に、森林破壊も著しい。
ということで、森林の樹木の二酸化炭素量の算出にはある種の検量線を使った方法が用いられています。大きな木や小さな木、その重量や二酸化炭素量はおおきく変化しているはずですが、それを直接はかるのは難しい。そこで簡単に測れる全体の高さや幹の周囲長(メジャーを巻き付けて測ります)などを測定しておきます。大きさの違う木をいくつかサンプルとして、それを切り倒して乾燥させて重さを測り、例えば「高さ×(幹の直径)2」のような指標と「重さ」や「二酸化炭素量」の相関式をつくります。(これをアロメトリー式と呼びます。)この相関式を検量線として利用すれば伐採や乾燥を最小限にとどめて二酸化炭素の固定量を求めることができるのです。
森林の中にあるサイズの区画をつくり、その中の全ての樹木の高さと幹の径を測ります。先の検量線(アロメトリー式)をつかってそれぞれの木の二酸化炭素固定量を計算して合算すればその面責での全二酸化炭素固定量が分かる。この情報を元に森林全体の面積から森林の二酸化炭素固定量をもとめるのです。
「解説」カテゴリの記事
- 災害発生時の通信手段について(片桐教授)(2019.03.15)
- 湿度3%の世界(江頭教授)(2019.03.08)
- 歯ブラシ以前の歯磨き(江頭教授)(2019.03.01)
- 環境科学の憂鬱(江頭教授)(2019.02.26)
- 購買力平価のはなし(江頭教授)(2019.02.19)