風力発電だけで日本のエネルギーをまかなえるのか?その4(江頭教授)
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「風力発電だけで日本のエネルギーをまかなえるのか?」について考えるこのシリーズ、その1、その2、その3と来たので今回でまとめたいと思います。「NEDO 再生可能エネルギー技術白書 第2版 ―再生可能エネルギー普及拡大にむけて克服すべき課題と処方箋―」に示された「導入ポテンシャル」に基づいて「陸上風力発電では日本のエネルギー需要(2017年度)の2割程度の発電しかできない」が、「洋上風力発電では日本のエネルギー需要以上の発電量が期待できる」のです。ただし、「一般社団法人 日本風力発電協会」が公開している「風力発電導入ロードマップ:ビジョン」をみると、2050年でも風力発電の目標値 21GW 。これは2017年の日本の最終エネルギー消費の約5%に留まっている、というのが今までのおはなしでした。
さて、もう一度NEDO の資料にもどって、 そもそも「導入ポテンシャル 」 とは何かを見てみましょう。
わざわざ図で説明されているのですが、日本の面積のうち、自然要因や法規制によって開発不可能な土地を除いて計算した面積から得られるエネルギーがポテンシャルとなります。まず定義によって経済性の有無は考慮されていません。それに加えて開発不可能の線引きも難しい、という問題点が指摘されています。前回も指摘したように陸上風力発電と比較して洋上風力発電は新しい技術なので「線引き」の難しさもより深刻なのでしょう。導入ポテンシャルのどれくらいの割合が実際に導入可能なのか、固めの見積がされることで導入ポテンシャルに比べて比較的小さな導入可能量となっていたのだと考えられます。
洋上風力発電の大きなポテンシャルと、それに比較して緩慢な実用化という現状にはもちろん日本政府も気がついています。
「エネルギー白書2019」では「現在の導入量約2万kWはすべて国による実証事業です」と述べられており、陸上風力発電はすでに歴史のある技術であるのに対して、洋上風力発電はそこまで成熟した技術ではない、という認識を示した上で、
周囲を海に囲まれた日本にとって洋上風力発電の導入はきわめて重要です。2018年に閣議決定されたエネルギー基本計画の中でも「陸上風力の導入可能な適地が限定的な我が国において、洋上風力発電の導入拡大は不可欠である」と位置づけられています。
と強調されています。これは、逆に言えば現時点で自然に導入が進む状況ではなく、国による環境整備が必要な状況だという点では陸上風力発電や、あるいは太陽電池による発電などと同一には語れないということでしょう。
洋上風力発電の環境は現時点ではまだ整っていないとはいうものの、そこにエネルギー源があり、その取り出し方も分かっている。技術と制度を整えれば日本の全エネルギーをまかなえるほどの風力がそこにあるのですから、我々の努力次第で開発できることは明かです。
洋上風力発電の未来は「確定した未来」ではありませんが「約束された未来」ではある、とでもまとめておきましょうか。
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