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バナナとエチレン(江頭教授)

| 投稿者: tut_staff

 今回のお題はバナナ。前回に引き続き果物のお話です。と、言いたいところなのですがバナナは果物でよいのでしょうか。バナナは確かに植物の実ではあるのですがバナナという植物は草なので野菜というべきなのでは、という意見もあるようです。実際、日本ではあまり見られませんがバナナの原産地である熱帯では野菜として調理するためのバナナというものもありますよね。

 子ども時代を思い返すとバナナはほかの果物、リンゴやミカンとは少し違っていたような。何しろ「酸っぱいバナナ」というものに出会った記憶がない。常に甘い、というのがバナナの大きな魅力だったように思います。酸味がないというのはバナナの本来の特徴なのでしょうが、ほかにも日本に輸入されるときの扱いもバナナが甘い理由の一つでしょう。バナナはまだ緑色のものが船で輸送されるのですが、あとで温めて熟成させられるのです。日本で店頭にならぶバナナはみんな黄色く熟れていて、そして甘い。もっとも、加熱する手間のせいもあるのでしょう。バナナは果物としては高価でなかなか食べる機会がない。たまにしか食べられないけれど確実に甘い果物、それがバナナなわけです。

 さて、最近はどうでしょう。酸っぱいミカンが少なくなってどのミカンも甘い、という現状では「必ず甘い」というバナナの価値も特別なものではなくなったのでしょうか。最近のバナナはとにかく安い。「バナナのたたき売りか!」と思うほど安価に売られています。

 

Fruit_banana

 バナナが安価になったのは先ほど説明した「収穫した後で温めて成熟させる」というバナナ独特のプロセスに関係があるのでしょう。昔はバナナを温めるために石炭を燃やしていたのですが、それが石油に切り替えられたのです。

 なるほど、石油の方が石炭より扱いが楽だよね。それでコストダウンか。

 いえいえ、この場合石炭から石油への切り替えは大失敗。同じ温度になるように調整しても石油での加熱ではバナナは成熟しなかったのです。加熱することでバナナを成熟させるために石炭を燃やしていたのですが、実は成熟の理由は温度ではなく、石炭の燃焼に従って発生する物質が植物ホルモンとして作用していたのです。

 その植物ホルモンの正体は実はエチレンでした。この事実が分かればバナナの加熱処理はもう必要ありません。陸揚げしたバナナをごく微量のエチレンと接触させればバナナはちゃんと熟して黄色く、そして甘くなるのです。

 まさに「知は力なり」と言いましょうか。バナナは高い、という私の子供時代の常識は今では根拠のないものとなったのですね。

江頭 靖幸

 

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