ニューズウィーク日本版「特集:プラスチック・クライシス 」を読んで(江頭教授)
| 固定リンク 投稿者: tut_staff
今回の記事は日本版ニューズウィーク2019年11月26日号の特集「プラスチック・クライシス」を読んでの感想です。私が読んだのは電子版(Kindle版)で、18ページから27ページまでの記事を対象としています。なお、このブログの内容は私(江頭)の個人的意見であり、学校法人片柳学園、東京工科大学、あるいはその一部(工学部、応用化学科)の組織としての意見をかならずしも反映するものではありません。
さて、前回、前々回とプラスチックを紙に切り換える取り組みについて紹介しました。今回は、そもそもプラスチックの何が悪いのか、という話をするところだと期待されているかも。そう思って表題の「プラスチック・クライシス」という特集を題材に選びました。残念ながら、どうもこれは失敗だったようだ、というのが今回の結論です。
まず、特集1ページ目(18ページ)の文章と2ページの写真、これはおそらく紙版では見開きのページとなっていて、この特集の導入となっている部分です。写真はなかなか刺激的な「鳥の死骸の腹を開くと、なかには大量のプラスチックが入っている」という図なのですが、これはどこでどのようにしてとられた写真なのでしょうか。そもそもこれは写真なのか、よくできたCGなのか。あるいは写真をつかったコラージュなのか。
目を背けたくなる写真だ
と文頭にあるので、おそらく写真なのでしょう。でもどうやって撮影したのでしょう。どこかの海岸を歩いていて、突然腹がかっさばかれた鳥の死骸に出くわしてそこにプラスチックのかたまりが...。そんな事があるのでしょうか。(本当にあるのなら場所を教えて欲しい。そこには近づかないようにします。)あるいは鳥の腹を撮影者達が開いたのでしょうか。最初の一羽でこの状態なのか、たくさん鳥を捌いて一番プラスチックが入っていたものを選んだのか。そしてプラスチックが見えやすいように配置をアレンジしたのか、しないのか。たくさんの疑問が吹き出してきます。
別にCGでもコラージュでも構わないのですが、本文を読んでもキャプションを見ても判断がつかない、というのが気になってしまいます。ニューズウィークは科学の論文の雑誌ではありませんから、そんなところにこだわるのがお門違い、ということなのかも知れません。
とはいえ、最初のこの引っかかりは特集を読み進めても全く解消されないのです。
この特集を構成した人たちの伝えたいことは凄く良く伝わってくるのです。ですが、なぜそういう結論になるのか、そう考える根拠は何なのか、といった点が全く分からない。
例えば27ページでは
プラゴミに関してはリサイクルが解決策にならないという認識も広まった
として、
なにしろ、1950~2015年の間に地球上で生産された膨大な量のプラスチック製品のうち、リサイクルできたのはわずか9%にすぎないのだ。
と述べています。
普通に考えるともっと廃棄物処理に真面目に取り組んで9%のリサイクル率を向上させるべきだ、となると思うのですが「解決策にならない」とする理由はなになのでしょうか。たとえば「99%がリサイクルされていてなお、この現状がある」というのなら「リサイクルが解決策にならない」でしょう。でも9%ならまだまだ向上の余地がある様に私には思えます。
もちろん、この特集を編集した人たちはプラスチック製品の全面禁止を訴えたいと考えていることは分かります。でも、リサイクルより全面禁止の方がよい、と結論するにはいろいろな情報が不足していると思います。写真中心の10ページの特集記事ではインパクト重視だ、というのが日本版ニューズウィークの立場なのでしょうか。だとすれば私には少々残念に思えるのですが…。
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