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エチレンと腐ったミカン(江頭教授)

| 投稿者: tut_staff

 エチレン、C2H4という分子は炭素間の二重結合をもつ最も簡単な分子として有機化学でも最初の方に出てくるおなじみの分子です。そんな簡単な分子が植物のホルモンだ、と言われると少し変な感じがします。なんとなくホルモンは複雑な分子である様な気がしていたのですが...。まあ、これは私の勝手な思い込み。ホルモンという名前は分子の持つ機能から付けられた名前ですから別に構造とは関係ないですよね。

 さて、このエチレンのホルモン作用はバナナを熟成させることに利用されているのですが、じつは他の果実も熟成させる効果があるのです。例えばミカン。ミカンもエチレンによって熟成させることができます。でもミカンの出荷前にエチレンによる熟成処理などは行われていません。ミカンは熟れてから出荷されるものですから逆にエチレンに曝されると熟成が加速されてその先に行ってしまう。つまり腐ってしまいます。ですからミカンの流通、保存ではなるべくエチレンを避けたいのですが、残念ながらミカン自身からもエチレンが発生しています。それも、ミカンが腐るとき大量のエチレンを発生させるというのです。

 これは困った状況です。たくさんのミカンを一緒に置いておく場合、中のミカン一つが腐るとそこからエチレンが発生。周りのミカンの熟成も加速され、これも腐ってしまいます。そのミカンからもエチレンが発生しますから、さらにエチレンが増えてもっとたくさんのミカンが腐ってしまいます。

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 私は昔から箱入りのミカンを買ったとき、まずは腐ったミカンを探して箱から取り出して(食べられる部分は食べて)捨てる様にしていたのですが、これは腐ったミカンを箱に残して置くと箱全体がダメになってしまうのを避けるための習慣だったのですね。いつ誰から教わったのか分かりませんが、エチレンが原因だとは知りませんでした。

 この現象が元になったのでしょう。「腐ったミカン」という言い回しには特別な意味があります。クラスや学校などの集団に素行不良の生徒がいると、他の生徒もその悪い影響を受けてしまう、という意味。私は、なんかいやな言い回しだなあ、と思っていました。まあ腐ったミカンは元には戻りませんが不良の生徒は更正する可能性もあるわけで、その意味でこのアナロジーは雑だ、ということでしょうか。

PS:この「腐ったミカン」という言い回しは武田鉄矢さんが主演した人気ドラマ「3年B組金八先生」のなかで使われて有名になったそうです。このドラマがオリジナルなのか、それ以前からこう言われていたのかは分かりません。武田鉄矢という人は博識な人なので、どこか意外なところから引用してきたのかも知れませんね。

江頭 靖幸

 

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