先進国とは?(江頭教授)
| 固定リンク 投稿者: tut_staff
「日本はすでに先進国ではない」「このままでは後進国になってしまう」そんな主張が最近気になっています。今回はこの主張に乗ってみましょう。
そもそもは有名企業の経営者がインタビュー記事のなかで日本は現状を憂いて「このままでは後進国になってしまう」と言ったのがきっかけだと思いますが、もちろん同様の主張をしている人はその前にも後にもたくさんいると思います。その一つ一つを詳しく検討する時間も意欲もないのですが、私が気になっているのは一点だけ。そもそもこの人たちは「先進国」「後進国」という言葉をどういう意味で使っているのだろうか、という点です。
「先進国」も「後進国」も、その定義はいろいろあるのですが、私自身がしっくりくると思っているのは「FACTFULNESS(ファクトフルネス)10の思い込みを乗り越え、データを基に世界を正しく見る習慣」の著者、ロスリング博士がイギリスBBCと作成した動画"Hans Rosling's 200 Countries, 200 Years, 4 Minutes - The Joy of Stats - BBC Four"(「ハンス・ロスリングの200ヵ国200年を4分で」)に示されてる考え方です。この動画では縦軸に寿命を、横軸に収入をとったグラフに世界の200ヵ国のデータをならべ、その200年間の変化を動画で示しています。収入が低く寿命が短い(画面に向かって左下)の領域にあった国々が収入が高く寿命が長い(画面の右上)に向かって移動してゆく様子がはっきりと示されています。後進国とは短命で貧困な国、先進国とは長寿で豊かな国、というわけですね。
さて、少し話は変わっていわゆる「先進国」「後進国」は英語では何というのでしょうか。それぞれ"developed country "、"undeveloped country"`であって、日本語の持っている「先」と「後」というニュアンスは感じられません。
先の動画を見直すとすべての国々が左下の後進国から右上の先進国に向かって移動してゆくのが分かりますが、先に移動する国もあれば後から移動を開始していてまだ右上に到達していない国もあります。日本語の「先進国」「後進国」という言葉の持つ「先」と「後」というイメージはここにあるように私は思います。
ようするに英語の"developed country"、"undeveloped country"ではundevelopedという状態からdevelopedという状態に(一つの国が)移動する前と後という考えなのですが、日本語の「先進国」「後進国」ではその移動の早さ、もっと言うと速さの順位の話になっているように思うのです。
「日本はすでに先進国ではない」「このままでは後進国になってしまう」という言説は前者の解釈ならば「日本人が貧しくなって短命になっていまう」という人生の長さと質にかかわる深刻な問題です。しかし、後者の解釈なら「ほかの国に追い越される」というある種プライドの問題にすぎません。
正直、一つの国が"developed country"になった後で"undeveloped country"に逆戻りする、という現象は長い年月をかけて衰退するとか、よほど大きな規模の災害がなければ起こらないのではないでしょうか。「日本はすでに先進国ではない」「このままでは後進国になってしまう」など、気軽に言ってほしくはない、というのが私の感想です。
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