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カーボンニュートラルな森林火災(江頭教授)

| 投稿者: tut_staff

 昨年末から今年にかけて、オーストラリアでは深刻な森林火災が起こっています。私がオーストラリアで乾燥地植林の研究をしていることを知っている人から「大変なのでしょう?」というお言葉をもらうこともあります。

 とはいえ、私自身のはそんなに危機感はないんですよね。そもそも私が対象としているのは乾燥地。植生が豊かではありません。それでも野火の後に遭遇することはありますが、それが大規模に燃え広がることはありません。(そもそもそんなに燃えるものがないですからね。)

 また、今回のシーズンの森林火災は最近まで南オーストラリアが中心。私の研究対象地は西オーストラリアなので安心していましたが。ただ、先日パース近郊で火災があったというニュースでいよいよ来たか、という感じです。

 さて、この火災のせいで不幸にして命を落とした方もいらっしゃいますし、焼け出されたり家を失った方々のいらっしゃってそれだけで深刻な事態です。野生動物にも大きな被害が出ている、というニュースもありました。ただ、今回お話ししたいのはこの森林火災と温暖化、正確には大気中の二酸化炭素濃度との関係についてです。それも、温暖化による異常気象がこの火災の原因なのかどうか、ではなくて、この火災によって大気中の二酸化炭素濃度が増えるのか、という点です。

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 EmergencyWA(「西オーストラリア緊急情報」とでも訳しましょうか。)では西オーストラリア州の南の方に森林火災(Bushfire)の警告が出ています。一方で中部西河岸では洪水の警報が出ているのですね。

 まず短期的には「YES」です。森林が燃えているのですから二酸化炭素が発生するので当然ですね。ただ、短期的に、とつけたのはもう少し長いスケールで考えるとどうなるか、という視点が必要だと思うからです。

 森林火災が起こった後の土地はどうなるのでしょうか。そのまま焼け跡が残り続けるわけではありません。草が生えて一面が緑になりやがて小さな木が伸び始めついには元のような立派な森林に育つのではないでしょうか。その際、樹木は光合成で二酸化炭素を吸収するわけです。森林が火災の被害から回復したとき、その森林には火災の前とほぼ同じ量の炭素が固定されていると期待されます。正味で二酸化炭素の出入りはゼロとなるわけです。

 逆に考えると森林火災で放出される炭素はもともと樹木が光合成によって大気中から回収したものです。この点が化石資源の燃焼による二酸化炭素の放出とは違う。要するにバイオ燃料と同様なので、森林火災はカーボンニュートラルと言ってもよいでしょう。

 そもそもオーストラリアの森林では常に火災が起こっていて、生態系の自然のサイクルの一部なのです。都会に住んでいる人間にとって火災はできれば避けたい災難であり、実際に全く起こらなくてもだれも困りません。しかしオーストラリアでは毎年1500~2500万haの森林で火災が起こっていて、そのうち600~700万haの火災は人間のコントロールの元で起こされています。火災が全くなかったらそれはそれで問題なのです。

 もちろん、だからと言ってオーストラリアの森林火災が深刻な問題ではないというつもりはありません。ただ、私たちが日本から想像するのとは少々違った現象だ、とは言えるのではないでしょう。

江頭 靖幸

 

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