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デマを拡散しないように-3 マスクは鉄壁ではありません(片桐教授)

| 投稿者: tut_staff

 このブログの内容は不用意に拡散しないように。必要なら必ず裏をとり、自分で確認してから、自分の言葉として発言しましょう。他人のことばをそのまま鵜呑みにするのは危険な行為です。


 先のブログ記事「デマを拡散しないように-2」でマスクについていくつかコメントしました。


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 コロナウイルスの大きさはNIID国立感染症研究所のページに、MERSコロナの情報として「他のコロナウイルスと同様、脂質二重膜のエンベロープに包まれた直径100 nmの楕円体で、エンベロープ表面に王冠に似た突起、スパイクがある。」と記載されています[https://www.niid.go.jp/niid/ja/typhi-m/iasr-reference/2320-related-articles/related-articles-430/6116-dj4304.html]。
<中略>
この100 nmという大きさはPM2.5の粒子の25分の1の大きさということです。この大きさでは、300 nmの粒子を95%シャットするN95と呼ばれるマスクでも減らすことはできても完全に防ぐことは難しいでしょう。一般のガーゼマスクで呼気中のウイルスを防ぐのはほぼ困難でしょう。
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さらに、少し古いものですが2009年に国民生活センターが「ウイルス対策をうたったマスク」という報告書を出しています。http://www.kokusen.go.jp/pdf/n-20091118_1.pdf
それによると、検査対象の国内販売の15商品のうち、記載されているスペックを満たしていたのはわずか3種類だったそうです。「ウイルス除去率99%」とうたっていても、実際は40%程度という商品もあったようです。そのためか、現在はウイルス除去率をうたって販売しているマスクはなくなりました。記載されていても、以前のように大きな文字で堂々とは書かれていません。

 このような記述を読むと「完璧にブロックできないのなら、マスクは無意味」と考えてしまう方がおられます。確かにマスクは鉄壁の防御ではありません。しかし、まったく無意味ではありません。
 飛沫感染を防ぐ効果はN95マスクでなくてもある程度期待できます。マスクもせずにくしゃみや咳をしている人のそばに行く場合には効果を期待できます。また、マスクをかけていると、ウイルスに汚染されている手指を口に触れさせない効果もあります。
 マスクは鉄壁ではなくても、やはりある程度の効果を期待できる予防対策です。大事なのは、マスクだけに頼らないことです。マスクはひとつの予防メソッドであり、それだけに頼ってはいけません。手洗やうがいなどの対策、免疫を高めるための栄養・食事への気配りなど他の対策と併用すべき対策です。金曜日にトイレで手を洗っていたら、マスクをかけた学生が手を洗わずに後ろを通り過ぎました。コロナ感染予防的に見ればちぐはぐな対応です。手を洗うチャンスがあれば必ず手を洗いましょう。

 先日参加した安全環境に関する研究会で、O大学の先生がコロナ騒動に関して「政府の水際対策は失敗したとお考えの方は手を上げてください」と観客に話をふった時に会場にいた大多数の人(大学や企業の安全の専門家)は手を上げました。手を上げなかったのは私を含めて1〜2割程度だったと思います。
 政府の水際対策はマスクと同じです。いろいろな対策のひとつと位置づけるべきであると、私も思います。いろいろな批判もありますが、確定患者の半数以上の感染経路を明らかにできるほどには流入の抑制に成功した今回の水際対策は、鉄壁ではなくてもそれなりに成功しているというのが私の意見です。

 安全工学の講義の「対策立案」の時に、一般の人の危険認識について「個別的認識と統計的認識」の話しをしました。「ガンの治癒率60%の治療法と40%の治療法があるとして、どちらが優れた治療法だろうか」というものですね。統計的には60%の治療法の方が優れていますが、患者にとっては自分に有効な治療法が優れています。どんな治療法でも患者は生きるか死ぬかの二択になり、60%生きている状態になることはありません。
 個人としてはコロナ肺炎にかかるかかからないかの二択です。だからこそ、水際対策には100%の完璧さを求めたくなります。そして100%でなければ0%の評価を下します。しかし、社会全体の統計的視点では、60%の対策もまた有効な対策であると評価できるわけです。

 マスクに100%の防御力を期待しては行けません。マスクをしていれば大丈夫と不用意に安心してはいけません。だからといって、100%でないのなら無意味であるとマスクをあきらめてもいけません。大事なのは多重的より多面的な対策により小さなインシデントの不幸な偶然の重なりを避けることです。これはヒヤリハット対策で大きな事故を避けることに似ています。

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