デマを拡散しないように-4 イブプロフェンを使ってはいけないとするフランス保健相Twitterコメントへの個人的コメント (片桐教授)
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このブログの内容は不用意に拡散しないように。必要なら必ず裏をとり、自分で確認し、理解してから、自分の言葉として発言しましょう。他人のことばをそのまま鵜呑みにするのは危険な行為です。
この2020年のコロナ感染症騒動における3月15日のフランス保健相の「イブプロフェンを使ってはいけない、アセトアミノフェンを使え」というTwitterでのつぶやきは社会不安をかき立てています。
https://news.yahoo.co.jp/byline/saorii/20200315-00167830/
しかし、なぜイブプロフェンを使ってはいけないかについて、詳細な情報は無く、そのためこの情報をFake Newsと主張する人もいるようです。
https://news.yahoo.co.jp/byline/masakazuhonda/20200317-00168265/
なぜ使ってはいけないかという理由は、その薬の作用機序を理解し、感染症への影響を考えれば、理解できるかもしれません。以下は、30年前に細胞性IV型アレルギー(対ウイルス免疫の暴走)の薬の開発に関与していたことのある、片桐の個人的な情報提供と見解です。
風邪を引くといろいろな症状が出ます。これらの「症状」はウイルスが起こすというよりも、ウイルスに感染した細胞を白血球が攻撃する細胞性免疫反応により起こります。発熱は免疫細胞を活発化するための人間側の防御反応のひとつです。炎症はその白血球の攻撃=活性酸素の流れ弾、で周囲の細胞も傷つくことにより起こります。咳や痰も同じく、感染症への免疫による防御反応です。
しかし、これらの感染症への防御反応は行き過ぎると患者の命を奪うこともあります。わかりやすさのために少しウソのある説明ですが、肺炎は肺に感染したウイルスを白血球がやっつけようと攻撃するために、肺の機能を奪うことにより生じます。肺の感染細胞を攻撃するために、白血球は血管からしみ出してきます。そのため血管壁の透過性が高くなり血しょうもしみ出して肺水腫を起こします。これは最終的にその人の呼吸を困難にし、命を奪います。がん治療中に治療がうまくいきガンが小さくなると、これまでがん細胞を攻撃していた免疫系が暴走してARDS(急性呼吸切迫症候群)を起こし死に至ることがあります。作家の遠藤周作さんはガン闘病中に肺炎でなくなりました。
むやみやたらと症状を抑えるのは感染を広げるおそれがあり、得策ではありません。一方で免疫系の暴走を許すと命にかかわります。適切にコントロールしてやらなければならないということですね。
発熱や頭痛などの不快な症状を緩和するために、市販の風邪薬にはこれらの症状を抑える成分が多数含まれています。鎮痛剤、抗炎症剤、解熱剤と呼ばれるお薬成分です。よく使われるそのようなお薬を大きく分けると、ステロイド系のものと非ステロイド系のものになります。ステロイド系のものは細胞性免疫系を元から止めて炎症を抑える薬です。感染症に使ってはいけない薬です。肌荒れによく効くステロイド軟膏を水虫に使うともっとひどくなります。
非ステロイド系のお薬には、今回話題の中心になっているイブプロフェンやアセトアミノフェンの他にもエテンザミド、イソプロピルアンチピリン、アセチルサリチル酸(アスピリン)やインドメタシン(貼り薬)などがあります。これらのお薬の作用はアラキドン酸カスケードと呼ばれる痛みや炎症を伝達する物質を作る生体内の反応系を阻害することです。より具体的にはシクロオキシゲナーゼ(COX)と呼ばれる酵素の阻害です。このアラキドン酸カスケードの作るプロスタグランディンは何種類もあり、そのような生体情報の伝達だけではなく、胃壁の保護などにも関与します。だからインドメタシンを使い続けていると、胃潰瘍のような副作用を起こします。
このCOXという酵素も大きく2種類あり、さらにその作り出す物質は場所等により異なるようです。そのため、薬によってCOX阻害作用の効果は異なってきます。イブプロフェンは強い「抗炎症作用」を持ち、アセトアミノフェンはそれに比べて弱いと言われています。そして、アセトアミノフェンは別のシステムで痛みを止めると考えられています。詳細は、例えば「日本ペインクリニック学会」のページをご参照ください。
https://www.jspc.gr.jp/igakusei/igakusei_keynsaids.html
結局、強力に炎症を抑えてしまう抗炎症作用の強いお薬、例えばイブプロフェンは免疫まで抑制してしまうために、対コロナウイルス感染免疫を抑制してしまうから好ましくない、ということだと思われます。このような風説は30年前から言われていました。そのため,前のブログでも風邪薬のアセトアミノフェンについてほんのちょっとと言及しておりました(2020.3.5)。よく効く「良い」薬ほど、そのような副作用に注意すべきだということです。あまりにも当たり前の結論になってしまいました。また、抗炎症作用の弱いアセトアミノフェンには肝臓機能障害の副作用があります。
以上、長々と述べましたが、抗炎症・鎮痛・解熱剤を理解して使うためには、それなりの知識が必要です。薬は毒にもなります。使う際にはバランスが必要です。その作用には個人差があります。生兵法は大怪我のもとです。専門家であるお医者様に相談して診断を受け、薬剤師の処方する最適なお薬を正しい用法で使うのが一番です。
応用化学科の学生さんは、もしコロナ感染症が怖いと感じたなら、良い機会ですから一度、自分の使っている風邪薬や頭痛薬の「成分表」(薬の箱の横に書かれている)も読んでみましょう。
しつこいようですが、このブログの内容は不用意に拡散しないように。必要なら必ず裏をとり、自分で確認し、理解してから、自分の言葉として発言しましょう。他人のことばをそのまま鵜呑みにするのは危険な行為です。
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