このブログの内容は不用意に拡散しないように。必要なら必ず裏をとり、自分で確認し、理解してから、自分の言葉として発言しましょう。他人のことばをそのまま鵜呑みにするのは危険な行為です。
Lancetという医学雑誌の2020年4月号に、糖尿病や高血圧などの基礎疾患を持つ方やイブプロフェンの投与による、コロナウイルスによる肺炎の劇症化の理由に関する仮説が紹介されていました。
https://doi.org/10.1016/S2213-2600(20)30116-8
他大学の友人がFacebook経由でこの論文を紹介してくれました。
私はこの分野の専門家ではないので、30年前に学んだ細胞接着の知識を元にこの文献の解説をしてみたいと思います。もちろん,非専門家の解説ですから、間違いがあるかもしれません。また,この論文に書かれている内容そのものがまだ仮説でしかありません。
だからこそ、このブログの内容を不用意に拡散しないように。必要なら自分で論文を読み、理解してから、自分の言葉として発言しましょう。
人の細胞は、「アンジオテンシン変換酵素(ACE)」と呼ばれる酵素を持ち、それを細胞外に飛び出させ、作用させています。このACEのうち、ACE2という酵素とSARS-コロナウイルスのエンベロープからから飛び出したトゲタンパク質とはくっつき易い性質を持っています。このACE2は肺や腸や腎臓の上皮細胞に現れる酵素だそうです。
さて、このアンジオテンシン変換酵素(ACE2)はアンジオテンシンというペプチドを作ります。アンジオテンシンは、血管を収縮させたりして血圧を押し上げる作用を持ちます。だから、高血圧の人や糖尿病のような基礎疾患を持つ人は、高血圧で血管に負担をかけることを避けるために、このアンジオテンシン受容体の拮抗阻害剤を継続的に服用しています。
しかし、人体は何らかの理由で血圧を上げているので、そのような形でアンジオテンシンの作用を邪魔されれば、ACE2酵素を増やしてアンジオテンシンを増産しようとします。薬でブレーキを掛けているのに、体はその分アクセルを踏んでしまいます。この増えたACE2酵素がコロナウイルスの標的になり、コロナウイルスを取り憑かせてしまう=感染促進してしまう、ということです。そして、このACE2酵素はイブプロフェンによっても増加するそうです。
なるほど、イブプロフェンと基礎疾患の話しがつながりました。ACS2酵素の増大が、コロナウイルスを取り憑かせ易くして、劇症化を招くということのようです。
でも、この文献は多くの仮説を含み、そのため「風邪が吹くと桶屋が儲かる」的な一つ一つは正しい因果関係でも、全体では正しいのかどうか、まだわかりません。また,だからどうすればコロナ劇症化を防げるかに関して、有効な示唆を行なっているわけでもありません。
そして、ACE2阻害剤は高血圧患者さんの命綱です。コロナウイルス感染が恐ろしいからといって、高血圧の人が服薬を控えれば、命にかかわります。
コロナウイルスの制圧には,我々はまだまだ無知です。
八王子市のホームページによれば、4月9日時点の市内の感染者は14名です。https://www.city.hachioji.tokyo.jp/emegency/007/p026487.html
八王子市の人口約58万人ですから感染者は4万人に1人です。その低い確率のリスクと薬を控えるリスクでは、後者の方がより大きなリスクです。それでも、毎日行なわれる報道で「怖いよ」と刷り込まれてしまうと、恐怖心から本当の危険を見誤ることになるのではないかと、危惧しています。
しつこいようですが、このブログの内容は不用意に拡散しないように。必要なら必ず裏をとり、自分で確認し、理解してから、自分の言葉として発言しましょう。他人のことばをそのまま鵜呑みにするのは危険な行為です。
片桐 利真