デマを拡散しないように-6 セッケンで手を洗いましょう(片桐教授)
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このブログの内容は不用意に拡散しないように。必要なら必ず裏をとり、自分で確認してから、自分の言葉として発言しましょう。他人のことばをそのまま鵜呑みにするのは危険な行為です。特に、今回はわかり易くするためにウソ(方便)が含まれています。
コロナ騒動で消毒用アルコールの不足が問題になっているようです。でも、アルコールがないのなら、セッケンで手を洗いましょう。水で流すだけより消毒の効果があります。
インフルエンザの予防では接触感染の予防、つまり、ウイルスのついた手指で粘膜を触ることによる感染の予防が重要です。アルコールによる消毒は手指についたウイルスから感染する能力を奪います。では、どうしてウイルスはアルコールによって不活性化するのでしょうか?。これは,ウイルスの構造とその感染機構から理解できます。
<ウイルス 第 61 巻 第 1 号,pp.109-116,2011>
コロナウイルスはエンベロープウイルスと呼ばれています。これは、ウイルスの本体であるRNAをタンパク殻(カプシド)が保護しており、その周りを脂質二重膜のエンベロープという膜が覆っています。このエンベロープは脂質二重膜とそれから飛び出す接着タンパクからできています。粘膜細胞への感染は、細胞へこの接着タンパクが錨のように作用してくっつき、その後、細胞の細胞膜とウイルスのエンベロープとが融合し、RNAを細胞内に導きます。
だから,このエンベロープを破壊すれば、コロナウイルスは感染することができなくなります。では、どのようにすればこのエンベロープを破壊して不化性化できるのでしょうか?。このエンベロープは化学の世界では脂質二重膜ミセル・ベシクルと呼ばれている構造です。ベシクルの破壊法は化学の課題になります。
我々のよく知っているこのような液膜の例としては、シャボン玉(液膜)をあげることができます。シャボン玉の中身は空気なので、もちろんそのまま対比させることには無理があります。しかし、このシャボン玉を壊す条件は、ウイルスのエンベロープを壊す条件になりえます。ここで、コロナウイルスはおおきさ100 nm = 0.1μmととても小さなものです。シャボン玉もおおきなものは割れ易く、小さなものは長寿命で遠くへ飛んでいきます。だからウイルスはシャボン玉に比べて壊しにくいと考えるべきです。
コロナウイルスのシャボン玉(ミセル・ベシクル)は水分の中では比較的安定に長時間活性を保持します。しかし、飛沫の中のウイルスは飛沫の水分が揮発すると不安定になり、不活性化していきます。だから、飛沫感染の場合のウイルスの寿命は3時間くらいといわれています。シャボン玉も乾くと壊れます。だから、水分がなくなりウイルスだけになった飛沫核は感染力を失うため、ウイルス単体による感染=飛沫核感染=空気感染はコロナウイルスでは起こらないと考えられています。
段ボールのようなセルロースの上に付着したウイルスの不活性化は12時間~
1日かかるといわれていますが、これはセルロース繊維が徐々に水分を吸い取るためではないかといわれています。
つるつるの金属やプラスチック表面上ではウイルスは不活性化しにくく、9日後でも活性を保持していたと報告されています。これもシャボン玉に似ていますね。
そして、ウイルスが粘膜から感染することも、同じように理解できます。粘膜のように濡れた表面上ではシャボン玉はなかなか割れません。
アルコールは消泡剤として工業的に使われています。泡を壊す薬剤です。そして、セッケンのような界面活性剤も消泡剤になります。セッケンを足すと泡が長持ちしそうに思うかもしれませんが、異種の界面活性剤であるセッケンの混ざり込んだエンベロープはふやけて構造を失います。エンベロープを構成している脂質二重膜の成分は「皮脂汚れ」の成分の一部です。
だからアルコール消毒剤がなければセッケンで手を洗いましょう。でも、セッケンで手を洗う時は、少し時間を掛けて(30秒以上)洗いましょう。
しつこいようですが、このブログの内容は不用意に拡散しないように。必要なら必ず裏をとり、自分で確認し、理解してから、自分の言葉として発言しましょう。他人のことばをそのまま鵜呑みにするのは危険な行為です。
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