コロナウイルスは制圧できるか? 天然痘との比較(片桐教授)
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今回のコロナ肺炎に関しては、ネット上に未確定ないろいろなコロナ対策情報が出回っています。アビガン、ヒドロキシクロロキン、レムデシベル、シクレソニド…などなどの有効な治療薬、療法薬が多数提案されています。現時点で、コロナ肺炎を制圧できるかについて考えるために、実際に制圧に成功した天然痘の例を参考に考察します。
天然痘は最近まで致死的な伝染病として恐れられてきました。池田理代子のマンガ「ベルサイユのバラ」を読んだ人は、ルイ15世がこの病で亡くなる壮絶なシーンでご存知でしょう。
この病の制圧で大きな役割を果たしたのが、1798年のジェンナーによる種痘でした。この「予防接種」によりヒトは天然痘の恐怖から逃れることができるようになりました。その後、第二次世界大戦後には欧米からこの病気は駆逐され、1960年代にはまだ1千万人ほどいた患者も、1977年の最後の報告以降、発症者はいなくなりました。種痘という決定的な武器があっても、完全制圧には200年の時を必要としました。
天然痘は高い伝染性を持ったウイルス性の病気でした。感染は主にヒトからヒトへの近距離(2 m程度)の飛沫感染とされ、N95マスクである程度防げるとされていました。また,接触感染もあるとされていました。これはコロナウイルスと共通の性質です。一方で、大きく異なるのは、キャリア状態(無症状スプレッダー)はほぼ存在しないところです。
天然痘が完全制圧できたのは、この病気には3つの性質があったからと言われています。すなわち:
(1) ウイルスがヒトヒト感染によってのみ移る(宿主はほぼヒトのみ)
(2) 確実な診断方法の存在(発疹でわかる。無症状感染者はいない)
(3) ワクチン予防接種により予防できる
という3点です。この性質を鑑み、人口の80%以上への予防接種と患者の発見と隔離により、天然痘はこの世界から消し去られました。
一方、スペイン風邪のようなインフルエンザは、鳥からヒトに伝染する「人獣共通感染症」であるため、(1)の条件を満たさず、また、ウイルスの変異も早いために、(3)のワクチンも決定的な予防手段になりません。そのかわりに、タミフルをはじめとする特効薬の開発されました。インフルエンザの完全制圧には、まだ何か別の戦略を必要とするものの、希望があります。
また、AIDSを起こすHIVウイルスの場合、は(1),(2)を満たしているのですが、免疫細胞そのものに取り憑くウイルスなので、ワクチンが作れません。現時点で有効な治療薬はたくさんあります。しかし、それらのお薬を組み合わせて使っても、完治は難しい病です。完全制圧にはまだまだ研究と時間がかかりそうです。
ウイルス性の疾患ではありませんが、マラリアは、蚊の媒介する熱病です。毎年3億人が罹り、数百万人が亡くなっています。1960年代初頭、WHOはキニーネとDDTでマラリアを、天然痘と同様に撲滅は可能と見積もりました。実際、セイロンにおけるマラリア撲滅は年間250万人の患者を30人以下に抑えることに成功しました。しかし、カーソンの「沈黙の春」とそれに共感したケネディの政策によりDDTは禁止され、数年後には元の患者数に戻ってしまいました。このような疫病の制圧には、化学技術だけではなく、戦略をぶれずに貫く政治力も必須なようです。
コロナウイルスについていえば、(2) 確実な診断方法(無症状感染者が存在する。PCR法は70%程度の精度と言われる)の開発、(3) 予防ワクチンの開発が今後の課題であり、制圧の鍵になりそうです。
期待しています。
しつこいようですが、このブログの内容は不用意に拡散しないように。必要なら必ず裏をとり、自分で確認し、理解してから、自分の言葉として発言しましょう。他人のことばをそのまま鵜呑みにするのは危険な行為です。
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