「ダルトンの法則」の意味は?(江頭教授)
| 固定リンク 投稿者: tut_staff
このブログの前回の記事は「ダルトンの法則」を落ちにしたので今回はダルトンの法則について少々。
例によってダルトンの法則について、wikipedia から引用してみましょう。ダルトンの法則とは
理想気体の混合物の圧力が各成分の分圧の和に等しいことを主張する法則である
とのこと。
このダルトンの法則、「倍数比例の法則」 とは別の意味でツッコミどころのある法則だと思います。
気になるのは「分圧」って何よ、という点。気体の圧力は測定できる実体のある物理量なのですが分圧はどうでしょうか?分圧を直接的に測定する手段はありません。混合気体中のある成分のみを通さないような理想的な半透膜があればそれにかかる圧力、ということになるのでしょうが「理想的な」と言っている時点でそんなものはないと言っているのも同じです。だとすれば分圧は全圧にその成分のモル分率をかけた値だ、としか定義できないのでは。モル分率の総和は1と決まっているのですから、分圧の総和が全圧に等しいのは当たり前、ということになるのですが…。
では分圧という言葉を用いずにダルトンの法則を表現できるでしょうか。ある一定の状態にある混合気体について述べるだけでは難しいと思いますが、混合の前後を比較する形でなら表現できると思います。
同じ温度で体積の等しい複数の理想気体を混合した場合、混合前と同じ温度と体積での圧力は各成分の混合前の圧力の総和となる
とかどうでしょうか。各成分の混合前の圧力がその成分の分圧である、とすれば実験的に測定可能な分圧の定義を与えることができます。ただし、この表現では混合だけを考えているので「与えられた混合気体の各成分の分圧」を定義していないことになります。ならば混合の逆の過程、分離に注目すれば
複数の理想気体の混合気体のある体積・温度での圧力は、そのガスの成分を分離して同じ体積・温度とした場合の各成分の圧力の総和と等しい
でしょうね。混合と比較して分離は一般に難しいプロセスですが、定義を優先するなら、ということで。
実験のやりやすさを考えれば
同じ温度で圧力の等しい複数の理想気体を混合した場合、混合前と同じ温度と圧力での体積は各成分の混合前の体積の総和となる
の方が良いでしょうか。でもこれは「ボイルの法則」も前提に含んでいますね。
さて、今回調べて気が付いたのですが「ダルトンの法則」の発見者(提案者?)のジョン・ダルトン ( John Dalton ) は「ドルトン」と表記するのが普通の様です。今回のタイトルも「ドルトンの法則」とすべきだったでしょうか。
「解説」カテゴリの記事
- 災害発生時の通信手段について(片桐教授)(2019.03.15)
- 湿度3%の世界(江頭教授)(2019.03.08)
- 歯ブラシ以前の歯磨き(江頭教授)(2019.03.01)
- 環境科学の憂鬱(江頭教授)(2019.02.26)
- 購買力平価のはなし(江頭教授)(2019.02.19)