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2020年6月

2020.06.30

八王子キャンパスの新しい日常(ニューノーマル)(江頭教授)

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 2020年の7月1日から大学での授業を一部再開する。これは前回も紹介しました。学生の皆さんが大学に戻ってくるための準備、ということで我々教員も閉鎖後のキャンパスにぼちぼちと通うようになっています。

 久々のキャンパスはやっぱりうれしいものです。学生さんの姿がないのは寂しい限り。でも、大学には春と夏、それに年末年始にまとまった休みがあって学生の居ないキャンパスというのも珍しいものではありません。有名観光地のように「こんな風景は前代未聞」というほどではありませんね。

 さて、キャンパスの閉鎖が解けても何もかもが昔通り、とはいきません。そもそも、限られた授業のみの実施。応用化学科では学生実験のみとなりました。さらに学生を2グループに分けて時間をずらして密度を下げての実施としました。

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2020.06.29

活動再開!東京工科大学八王子キャンパス(江頭教授)

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 今週の水曜日、2020年7月1日から八王子キャンパスでの授業が一部ですが再開することとなりました。

 7月1日の水曜日は実は授業開始からちょうど6週間が過ぎたところ。今年の夏学期は新型コロナウイルスの感染拡大の影響をうけて12週間に短縮されているので半分が終了。いわゆる第2クォーターの始まりとなります。

 これを機に、と言うわけではないでしょうが、どうしても大学でなければ行えない授業については、登校して対面での授業を行うこととなりました。

 大学でなければ、という授業、学部や学科によっていろいろだと思いますが、我々応用化学科としてはなんと言っても学生実験が該当します。思い起こせば、今期の授業がオンラインになる、と決まったとき最初に考えたのは学生実験のこと。こればかりはオンラインではできませんからね。幸いにもコロナウイルスの感染は抑えられている状態ですから、やっと実験が行える事になったわけです。

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2020.06.26

温暖化への人工排熱の寄与はどの程度か?(江頭教授)

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 前回、前々回の記事で地球の温度が「太陽から地球にやってくるエネルギー」と「地球から宇宙に放射される熱」のバランスで決まっている、というエネルギーバランス(熱収支)の考え方を紹介しました。でも実際には太陽のエネルギー以外に人間が地上で排出する熱エネルギー(人工排熱)もあるはずです。この効果はどの程度なのでしょうか。今回はその問題について考えたいと思います。

 まず太陽から来るエネルギーを QS とします。単位はSIなら[W]ですね。一方で地球から放射伝熱で宇宙に逃げてゆく熱は、地球の平均温度 T (単位は K )の4乗に比例している。両者がつり合うので

QST 4

となります。比例定数を k とすれば

QS = kT 4 (式1)

です。

 ここで人間が発生させる熱(人工排熱) QH が新たに加わって、温度が Δ変化したとすると

QS + QH = (T+ ΔT) 4 = T 4+ 4T 3ΔT  +6T 2ΔT 2 +4T ΔT 3 +ΔT 4 (式2)

となります。(式2)を(式1)で割り、

1 + (QH/QS) =  1 + 4 (ΔT / T ) +6 (ΔT / T ) 2 +4 (ΔT / T ) 3 + (ΔT / T ) 4

ΔT / T が充分小さいとすると

(QH/QS) ≒ 4 (ΔT / T ) 

よって

ΔT ≒ 1/4 T (QH/QS)

と評価されます。

 さて、実際に数値を入れてΔT の値を評価してみましょう。

 

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2020.06.25

「今日は地球の温度を計算してみよう」(その2)(江頭教授)

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 前回は「化学工学科」に配属されて、最初の授業の第一回で「今日は地球の温度を計算してみよう」と言われた、という話からスタート。輻射伝熱で地球から宇宙に逃げる熱の速度と地球の温度の関係がシュテファン=ボルツマンの法則で与えられる。エネルギー収支から地球から逃げてゆく熱は太陽から地球にやってくるエネルギーに等しい。だから地球の温度を計算するには太陽から地球にやってくるエネルギーを計算すれば良い、という結論になりました。

 ではどうやってその値を計算すれば良いのか、それが今回のお題です。

 まず、太陽から来る光の強さを平均することを考えるとどうでしょうか。昼もあれば夜もある。冬と夏でも日差しは違うし、赤道直下と極地でも違うから平均するのは大変そうです。

 地上から考えると大変な計算が必要な気もしますが、宇宙からの視点ではきわめてシンプル。太陽からやってきた光線のうち地球に到達するのは結局地球と同じ半径の円の面積、つまり地球の影の面積に到達した光だ、という事がわかります。

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 太陽から地球の軌道に届く光のエネルギーの(太陽に直面した)面積当たりの速度を太陽定数と言いますが、その値は 1367 Wm -2です。地球の表面にやってくる太陽光線のエネルギーの密度はその 1/4 の342 Wm -2 。地球の表面積はさきほど1.27×1014m2 と計算されているので、4.34×1016 W と求められます。

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2020.06.24

「今日は地球の温度を計算してみよう」(その1)(江頭教授)

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 私の専門は「化学工学」です。大学の卒業学科も「化学工学科」。その「化学工学科」に大学2年生になって配属されて、最初の授業の第一回で言われたのが表題のセリフ「今日は地球の温度を計算してみよう」でした。「えっ、そんな事できるの?」と驚いたことをよく覚えています。今でこそ温暖化問題に絡めた温室効果の説明で広く知られる様になった地球の熱収支(エネルギーバランス)の議論ですが、当時はまだ一般的ではなかったのですね。

 「化学工学」の起源は「化学工場の設計」です。化学反応をコントロールするためには温度を上げ下げする、つまり加熱や冷却をすることは必須ですから、「伝熱工学」は化学工学の重要な一分野となっています。その中では電磁波(赤外線とか)による伝熱(輻射伝熱とか放射伝熱とよばれます)も重要な現象として扱われています。宇宙に孤立した地球では、エネルギーがやってくるのも熱が逃げてゆくのも電磁波がメインですから、実は放射伝熱による熱収支の例題としては比較的扱いやすい問題なのです。

 真っ黒な物体でも加熱されて温度が高くなると「赤熱」というぐらいで自ら光を発するようになります。その光によってエネルギーが伝わる現象が放射伝熱です。温度が高いほど放射されるエネルギーも大きい、というのは感覚的に分かると思いますが、それを定式化したのがシュテファン=ボルツマンの法則です。真っ黒な物体の表面積から放射されるエネルギーの密度は温度の4乗に比例します。その比例係数がシュテファン=ボルツマン定数(ボルツマン定数じゃないよ!)で、その値は 5.67×10−8 W m−2K−4 です。

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2020.06.23

人間はどのぐらいの熱を作り出しているのか? (江頭教授)

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 地球温暖化の大きな原因の一つは人間が化石燃料を利用することです。でも、化石燃料が燃えて熱を出すから温度が上がる、ということではありません。これは初歩的な話で皆さんご存じかと思います。では、実際に人間が作り出す熱エネルギーはどの程度なのでしょうか。今回はその問題について考えてみたいと思います。

 まず世界のエネルギー生産について。今回はIEA(International Energy Agency 国際エネルギー機関 )が出している「World Energy Balances 2019」という文書のデータをみてみましょう。(この資料の Summary はIEAのWEBサイトに登録すれば無料でダウンロードできます。)

 さて、以下のグラフに1971年と2017年の燃料別のエネルギー供給量が示されています。「えっ、2017年?」そう思ったひともいるかも知れません。1971年は「むかしむかし」ということで良しとしても何で2017年なの。今年は2020年。この文書は2019年版だというのに…。でも、これはしようがありません。国際的なエネルギー統計の集計には時間がかかるものなのです。(というか例え時間がかかるとしても、全世界のデータが出てくること自体が凄いことなのですが。)

 さて、2017年の世界のエネルギー供給は 13,972 Mtoe だと言います。このうち、Hydoro(水力発電)、Biofuels (バイオ燃料)、Other ren. (その他再生可能エネルギー)を合わせて14%です。逆に言うと化石燃料である Coal(石炭)、Oil(石油)、Nat. gas(天然ガス)そして核反応から熱を発生させている原子力(Nuclear)の寄与が86%ある、ということです。

 水力やバイオ燃料などの再生可能エネルギーは元は太陽エネルギーですから、太陽から来たエネルギーが熱に変わる過程で仕事を取り出しているだけだ、と言えるでしょう。化石燃料ももともとは太陽のネネルギーだ、と言えないこともありませんが温暖化問題を考えるせいぜい100年程度のタイムスケールでは太陽熱以外の熱源と言えるでしょう。原子力から生じる熱はもともと原子核の持っているエネルギーですからこれこそ人間が作り出した熱と言うことができます。CO2排出の議論をする場合、原子力をどう考えるかが議論になりますが、太陽エネルギー以外の熱を作り出す、という視点ではこれこそが本当の「人類が作り出した熱」ですよね。

 

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2020.06.22

空気分子に邪魔されなかったら匂いの速度はどのくらいになるのか?(江頭教授)

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 以前の記事「においは宇宙空間を伝わるか」で「空気がなければおならの音がするのと同時に匂うんだよ。」という考えを紹介しました。匂いの本質は分子。もし空気がなくて、他の分子に邪魔されなければ匂いの分子は熱速度で移動する。だから空気がなければ速度は非常に速いはずだ、ということです。

 分子がランダムに運動していて、温度が高いほどその速度が速い。もっと言うと分子の平均運動エネルギーは温度に比例しています。3次元の運動の自由度は3なので一つの分子について平均 (3/2)kT の運動エネルギーを持つことになる(ここでkはボルツマン定数、Tは絶対温度です)。一方で分子の運動エネルギーは (1/2)mv2 なので( v が分子の速さ、m は分子の質量)両者を等しいとおくと

v = (3kT/m)0.5

となります。実際には分子の速度は均一ではないのでその分布を考えて平均速度を求めると

v = (8kT/πm)0.5

の様に。

 さて、この式を使って20℃の条件で空気の成分分子の平均熱速度を求めてみましょう。分子の質量 m は分子量をアボガドロ数で割って求めます。

 まず窒素が 471 m/s 、酸素は 440 m/s となります。これはそれぞれ時速 1700 km と1580 km に相当します。あるいはマッハ1.4と1.3。ものすごいスピードです。

 マッハ○○というのは「音速の○○倍」という意味ですから、これが1に近いと言うことは熱速度は音速程度だということです。実はこれは偶然ではありません。気体中の音速と熱速度は比例することが知られています。

 次におならの匂いの分子について。

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2020.06.19

日本人はどのくらい砂糖を消費しているか(江頭教授)

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 今回は前回も紹介した農林水産省の資料「平成30砂糖年度における砂糖及び異性化糖の需給見通し」に示された1人あたりの砂糖の消費量について別の観点から紹介してみましょう。前回は日本の1人あたりの砂糖の消費量がどう変化したか、時間軸で考えたのですが、今回は世界各国との比較です。

 ちょうどそのものズバリのグラフが載っていたので以下に引用しておきます。

 まず一目して分かるのは日本が砂糖を食べない国だということです。アメリカ、カナダやEUの半分程度。オーストラリアと比較するとほぼ三分の一といっても良いくらいです。

 もう一つ。グラフの横軸に注目してください。基点が1956年ですから約60年間の長期の需要変化のグラフです。その観点でみると日本がタイや韓国にも追い抜かれていて、中国からも追い上げられている状況がわかるでしょう。

 よく見るとオーストラリア、アメリカ、カナダやEUなど、砂糖の消費量が大きい国も砂糖の消費量が減少する傾向にあります。とくに1980年を中心とする10年間のアメリカの減少は劇的です。

 いわゆる発展途上国で消費量が増え、先進国では消費量が減る。これが全体的な傾向だとすると、日本は1970年ごろまで発展途上国型で砂糖の消費量が増えたが、その後先進国型に転じて減少するという経過です。1970年ごろまで日本の高度経済成長が続いていたのですから、この見立てには説得力があると思います。

 

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平成30砂糖年度における砂糖及び異性化糖の需給見通し」10ページ

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2020.06.18

究極の和菓子は「金つば」だと思う(江頭教授)

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 このブログ記事の内容は私(江頭)の個人的意見であり、学校法人片柳学園、東京工科大学、あるいはその一部(工学部、応用化学科)の組織としての意見をかならずしも反映するものではありません。

 さて予防線を張った上で炎上覚悟で一言。「和菓子の美味しさとは要するにあんこの美味しさに尽きる」というのが私の持論です。(異論は認めますが。)

 で、それを前提として考えると究極の和菓子は「金つば」ということになります。(至高の和菓子かどうかは別として。)なにしろ、あんこを食べやすくするためだけに作られていますからね。「もなか」もいい線いってますが、あれは皮の食感が立ち過ぎている。薄皮饅頭は皮が悪目立ちしていない点は認められるものの、球形に近いその形状ではたとえ最密充填をとったとしても、そのあんこ充填密度において「金つば」に比するべくもない。実際金つばを越えるにはあんこをそのまま食べるしかないでしょう。いや、それも良いかな。だとすれば究極の和菓子は「あんこ」そのものではないだろうか。

 さて、あんこは何からできているのでしょうか。あんこは小豆を煮て作る、と思った人。分かっていないなあ。あんこは主に砂糖でできているのです。小豆を煮て砂糖と混ぜるのですが、その際の砂糖の量が半端ない。半々どころか砂糖の方が多いくらいの勢いで砂糖が入っているのです。

 だとすれば究極の和菓子は「砂糖」ではないのか。それも砂糖の結晶である氷砂糖こそが真の究極の和菓子...と思って実際に食べてみると、氷砂糖って後味が悪いんですよね。

 馬鹿話はさておいて、砂糖の代用品として「アスパルテーム」などの人工甘味料がつくられ、その使用量は甘み基準ならアスパルテームだけで砂糖の5%に達しているという話を紹介しました。でも上述の「あんこ」などは人工甘味料では代替できない用途もあります。実際、日本人の砂糖の使用量はどのように推移しているのでしょうか。

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2020.06.17

凝固点上昇? 超分子構造の効果について(片桐教授)

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 このブログを書いている片桐は、少し(かなり)へそ曲がりな人間です。先日の「「凝固点降下」はあるのに「凝固点上昇」が無いのは何故か(江頭教授)」に、少し噛み付いてみましょう。

 ハロゲンボンディングという現象があります。ハイドロジェンボンディング(水素結合)のうちまちがいではありません。ハロゲン結合と言われる、フッ素化学の分野では知られているが、しかし、他分野ではあまり知られていない現象です。
 1,2-diiodotetrafluorothane (融点-23℃)と1,2-diethlenediamine(融点-55℃)を混ぜてできた結晶体(融点105℃)の中に見られる、窒素の非共有電子対(陰電荷)とフッ素により電子を引っ張られて陽電荷を持ったヨウ素の間の相互作用です。このハロゲン結合の効果により、混ぜ物の融点はとても高くなります。
 これを混合による「凝固点上昇」と呼ぶのは、少し強引ですが、このような混合により新しい高次構造を構築する例は、超分子化学分野では知られている現象です。

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 このような現象を何に使うか、考えてみると面白いかもしれません。

 似たような現象で、benzene(融点5.4℃)とhexafluorobenzene(融点5.0℃)を1:1で混ぜてやると、融点23.7℃の結晶体ができます。

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この結晶体の単結晶X線結晶構造解析による分析結果は、このbenzeneとhexafluorobenzenがface-to-faceでかわりばんこに重なって、柱構造の構築を示します。

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 これはbenzeneのπ電子はδ−の陰電荷として働くのに対して、hexafluorobenzeneのπ電子はフッ素原子の強い電気陰性度により引っ張られてしまい、π電子系がむしろδ+の陽電荷として働き、benzeneの陰電荷と相互作用するためであるとされています。

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2020.06.16

甘い匂いがする「アスパルテーム」(江頭教授)

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 私が大学で卒業研究をしていたころですから既に40年くらい前の話。別の研究室に配属になった同期生が実験をしているところに尋ねていったときの事です。

「この装置でアスパルテーム合成プロセスの研究をしてるんだ」

「アスパルテームって何?」

「人工甘味料だよ。ほら、これが僕が合成したアスパルテームさ。」

そう言ってサンプル瓶に入った粉末を手渡してくれました。中には白い粉末が入っているだけで何の変哲もない...あれ?なんか甘さを感じるんですけど。

 アスパルテームは普通の砂糖(スクロース)の200倍の甘さがあるとされています。目に見えないような小さな粉末が風に乗ってほんの少し舌にくっつくだけで、充分に感知できる程の甘さがあるわけですね。

 このエピソードは、今まではアスパルテームの甘さが如何に強力なのか、ということを示すのだと思っていました。いま考え直してみると、しっかりとサンプル瓶に保存されている試薬でも、ごくわずかな量なら粉末として空気中を拡散してくることがある、という事も示しています。普通は気がつかないのですがアスパルテームの甘さによってたまたまそれが認識できたということでしょう。甘味料なら面白エピソードですが、有毒な物質やウイルスを含む検体を扱うと事を想定すれば、サンプルの扱いには充分な注意が必要だという教訓でもありますね。

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2020.06.15

「酪酸」のにおい(江頭教授)

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 「シーシェパード」という環境保護団体をご存じでしょうか。一部ではテロ組織だと呼ばれるほど過激な行動をとる団体として知られています。2012年、このシーシェパードが捕鯨に反対して日本の調査捕鯨船に薬物を入れた瓶を発射したという事件があったそうです。 

 人それぞれの主張があるのはわかるけど、薬物を投げ込むっていうのは穏やかじゃないなぁ…。えっ、薬物って「酪酸」なの!何て酷いことするんだ、テロリスト許すまじ!!

 いや、別に酪酸が猛毒だという訳ではないのです。この物質、実はものすごく嫌な臭いがするのです。あんまり良い表現ではありませんが「クソみたいな」臭いと言うのでしょうか。あるいはギンナン、というかイチョウの実の臭いと言えば分かってもらえるでしょうか。

 酪酸という物質、またを名はブタン酸と言います。比較的単純な脂肪酸で、ギ酸、酢酸、プロピオン酸ときてその次が酪酸(ブタン酸)となります。自然界にも広く存在している物質で、最初に分離されたのはバターからだといいます。ブタン酸の名前はこのバターのラテン語に由来するそうです。

 ブタンという名前からブタン酸と命名されたのではなくて、ブタン酸からブタンという名前がついたのですね。昔、アルカンの名前をメタン、エタン、プロパン、ブタン...と覚えたものですがブタンは4という数字にちなんだ名前なのかと思っていました。まさかブタンの頭文字BはバターのBだったとは。

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2020.06.12

「スマホ」はPCなのか電話なのか?(江頭教授)

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 在宅勤務中のある日、手元に置いてあったタブレットから何やら警告音的なサウンドが。一体何だろう。一瞬戸とまどいましたが、すぐに気がつきました。これタブレットじゃなくてスマホに電話がかかっているんた!

 なんでだろう。タブレットとスマホが連動しているのでしょうか(設定した記憶はありません)、これではスマホの電話がタブレットにかかって来たようにみえてしまいます。スマホにかかってきてからタブレットに情報が伝わっているはずなのに何故かタブレットの方が反応が早いような。いや、タブレットの方が音量が大きく設定されているから気がつきやすいだけなのかも。

 電話をかけてきてくれた人に「何度か電話したのですが...」といわれたので、スマホの着信を取り逃していることが多いのかも知れません。今回はタブレットが手近にあって気がついて運が良かったのかも。

 スマホ=スマート「フォン」なので、スマホ=電話ではあるのですが、自分の使い方を思い起こしてみると、あまり電話としては使っていないような。どちらかというと外出時に使える小型のPCという役割の方が多い様に思います。

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2020.06.11

「やれることより、やるべきことを」(江頭教授)

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 たまたま「座右の銘はなんですか」という質問を受けたのですが、そのとき咄嗟に思い浮かんだのがこの言葉です。別に慣用句でもありませんし、「古代ギリシャの賢人ググレカス」とか「京大の坂本義太夫教授」の言葉、という由緒正し言葉でもありません。その証拠に google で検索しても

「やりたいこと」「やるべきこと」より「やれること」を考える経営

と、全く反対のメッセージがトップにヒットするありさまです。

 そんな言い回しですから、まずはどんな意味で使っているのかを説明しましょう。人生の、ではなくて研究に際しての判断の時に常に思い浮かべる言葉です。研究は実験や計算などの実作業が大前提ではありますが、どのように研究を進めていくか、という判断が非常に重要な意味を持っていて、時に非常に悩ましいことがあります。そんなに大げさにかんがえなくても、例えばある実験をして、そのデータを解釈して一つの結論に至る。では次にどんな実験をするべきか。考えらられる候補は一つに限らない。むしろ無数の候補からどれかを選ばなくてはならない。これはいささか単純化されていますが、こんな判断が必要になったときに「やれることより、やるべきことを」と考える様にしている、ということです。

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2020.06.10

人類は危機に瀕しているのか?(江頭教授)

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 一体何でこんな話を...、あっコロナウイルスで人類の危機とか、そんな話か?と思った方もおられるかも知れません。実はあまり関係なくて、いや、コロナウイルスには関係あるな。

 要するに、コロナウイルス騒動で人と話さないで過ごす時間が増えた分、自分の来し方行く末について考えた、というお話し。それが人類の危機と何の関係があるか、というと私が今の進路を選んだ理由がこの「人類は危機に瀕している」という認識だったのだな、とつくづく思ったからなのです。

 私は1962年産まれなので子供の頃には60年代から70年代のカルチャーの中で育っています。私と同年代の人なら分かってもらえると思いますが、この時期には「人類が危機に瀕している」というモチーフが色濃く存在していたのです。それにはいろいろな原因が想定されるのですが特に大きいのは米ソ冷戦とそれに付随する世界核戦争の恐怖でしょう。世界中の多くに人々が人類の危機を現実的な恐怖として感じ取っていたのです。先に私は1962年生まれだと言いましたが、この年は米ソの核戦争の危険がピークに達したキューバ危機が起こった年でもあるのです。

 核戦争の恐怖からそれをもたらした科学技術への懐疑。一時的に深刻化した公害問題に対する不安と不満が社会にあふれた状況の中で、私は子供時代を過ごしたのです。でも、どういうわけか私は「科学なんてダメだ」という方向には行かず「科学によって人類の危機を救いたい」と思う様になったのでした。楽天的な「科学感」があふれていた1950年代カルチャーの余韻がまだ残っていたからでしょうか。(例えばテレビアニメ版の「鉄腕アトム」は1963年1月1日からスタートしています。)中学から高校へと進んで科学について具体的に学び始める前から私は「科学」を仕事にしたいと考えていたのでした。

 「人類は危機に瀕している」という危機感を背景として、それを解決しなければならないという使命感、そして「科学」というものに対する憧れが合わさって「科学の力で人類の危機を救う」という希望が私がこの道に進む最初のモチベーションだったのです。

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2020.06.09

「沸点上昇」はあるのに「沸点降下」が無いのは何故か(江頭教授)

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 昨日の記事で「凝固点上昇」という架空の現象について考えてみました。「凝固点降下」の逆の現象という位置づけです。となれば「沸点降下」につても語らずばなりますまい。なにしろ、高校化学の溶液の性質の授業では「凝固点降下」といえば「沸点上昇」、「沸点上昇」といえば「凝固点降下」という感じで必ず対になっていますからね。

 前回同様、「沸点降下」という現象がもし本当に存在したらどんなことが起こるのか、考えてみたいと思います。例によって水のモル沸点上昇が 0.52 K・kg/mol ではなくてモル沸点降下が 0.52 K・kg/mol だとします。

 飽和食塩水( 6.15 mol/kg )の沸点降下度は前回同様、塩の電解を考慮して 6.15 mol/kg × 2 ×0.52 K・kg/mol = 6.39 K、 約6.4℃ですから飽和食塩水の沸点は 93.6 ℃となります。

 さて、今回のケーススタディには「凝固点降下」「沸点上昇」とともに「溶液の性質」の BIG3 と呼ばれる(?)「浸透圧」にも登場してもらいましょう。

(1)飽和食塩水と真水を半透膜を挟んで接触させたところ、浸透圧によって真水から飽和食塩水に向かって流れはじめた。

(2)このシステムを93.6℃以上100℃以下の温度にしたところ、飽和食塩水は沸騰し始めたが真水は沸騰していなかった。飽和食塩水から生じた水蒸気を真水側に送ると水蒸気は凝縮した。これは飽和食塩水から真水に向かう流れである。

(3)(1)と(2)の二つの流れがちょうど釣り合う様に調整したところ、真水と飽和食塩水の間の永久運動が起こっていた。ついに人類は永久機関を実現し無限のエネルギーを手に入れ、サステイナブル社会を実現した。

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2020.06.08

「凝固点降下」はあるのに「凝固点上昇」が無いのは何故か(江頭教授)

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 「凝固点降下」は「沸点上昇」と同様、高校の化学で「溶液の性質」として学習する内容です。雪が積もったときに使われる「融雪剤」として利用されていることや、分子量の測定にも役立つことなどの特徴についての設問や、モル凝固点降下からいろいろな条件での凝固点降下度を計算する問題など、化学の問題の定番といえるでしょう。

 ところで「凝固点降下」があるのなら「凝固点上昇」は無いのか? と疑問を持ったことはありませんか。今回は、もし「凝固点上昇」という現象が本当にあったとしたら、たとえば水のモル凝固点降下が 1.85 K・kg/mol ではなく -1.85 K・kg/mol だったら、というかモル凝固点上昇が 1.85 K・kg/mol だったらどうなるのか、を考えてみたいと思います。

 例えば食塩水を例に考えてみましょう。食塩は室温付近では水100gに約36g溶けるといいます。36 g の食塩は 36 / 58.5 = 0.615 mol です。これが 100 g の水に溶けると 6.15 mol/kg の溶液になります。凝固点降下度、おっと凝固点上昇度は食塩が水中でイオンに電離していることを考えにいれて 6.15 mol/kg ×2×1.85 K・kg/mol = 22.7 K 約23℃となります。

 なるほど。ではその場合、どんな現象がおこるのでしょうか?

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2020.06.05

においは宇宙空間を伝わるか(江頭教授)

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 私が大学院生だった頃の話です。研究室の皆で「宇宙空間で匂いが伝わるか」という議論をしたことを覚えています。

 なんでそんな話になったのか。前日くらいにスター・トレックというか「宇宙大作戦」の深夜の再放送があって、そのなかでミスタースポックが「宇宙では匂いは伝わらない」といった意味のことを話していたのが話題になったのです。(前日のTVの話で盛り上がるって、小学生か!)

 先輩が言うには「これはおかしい。」「匂いの本質は嗅覚器官によるある種の分子の認識だ。」「音や熱と違って宇宙空間の真空状態は匂いの原因となる分子の移動にはむしろ好都合だ。」

そして

「ミスタースポックの発言は非常に非論理的だ...。」

いや、確かにその通りだがそれはあまりにも、とドクターマッコイみたいなツッコミを入れることとなりました。

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2020.06.04

寅さんと産業革命(江頭教授)

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 寅さん、というのは有名な映画のシリーズ「男はつらいよ」の主人公。フーテンの寅、と呼ばれるくらいで「自由な生き方」をする人物ですね。シリーズ第40作の「男はつらいよ 寅次郎サラダ記念日」のなかでこの寅さんが大学の授業に潜り込むシーンがあります。その授業で扱われていた内容が「産業革命」。産業革命についてはいろいろな見方があり、共通の見解に至ることは難しい。いまや共通の見解を得ることができないということが唯一の共通した見解である、とかなんとか。要するに面倒くさいこと、もっと言えば益体もないないことをごちゃごちゃいってるだけ、という揶揄を含んだ描写でしょう。

 ということで「産業革命」について何か言うなら自分の立場をハッキリさせることが必要ですね。昨日の記事で日本の産業革命は明治維新、というような表現をしたのですが、どういう意味でそう言ってるのかを説明したいと思います。

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2020.06.03

明治維新と産業革命(江頭教授)

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 私が小学校の5年生か、6年生だったころの話です。歴史の授業で先生が「明治維新で人々の生活は良くなったか、悪くなったか」という質問をクラスに投げかけました。「鉄道ができた」から良くなった、「戦いがあった」から悪くなった、などなど、いろいろな意見がでました。今ならさしずめ「マイケル・サンデル風」とでも言うのでしょうか。もう40年以上前なのですが先進的な取り組みだなあ、と思い起こしています。(いや、手法自体はソクラテスの頃からあったのか。)

 さて、当時の私の意見は「変わらない」。だって鉄道ができたのは新橋あたりだけだし戦いといっても地域限定的なもの(江戸城の無血開城のことなど知っていたのでしょう)で、当時の日本人の大半にとっては「何々?」くらいだったのでは、というものでした。(いやなガキだ。)

 クラスとしての結論は「良くなった点もあるし、悪くなった点もある。」でした。明治維新は歴史の大きな転換点です。その瞬間には大きな変化は無くても、そこを起点にいろいろな変化が起こった。変わったことには良いことも悪いこともあるのですが、少なくとも「変わらない」ということは無い。今考えてみると、当時の私の意見は全否定されていますね。(当時は気がつかなかった様な。)

 さて、この質問、今の私が答えるとしたら「良くなった」、いや「圧倒的に良くなった」です。

Meijijoukyou

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2020.06.02

化学棟のにおい(江頭教授)

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 先日、自分の住んでいるアパートのエレベータで「ベランダでたばこを吸わないでください」という管理会社の張り紙を見つけました。ベランダでたばこを吸うと匂いが他の部屋のベランダに干してある洗濯物に移る、とか換気をするとき匂いが入ってくるとか。まあ、迷惑なので止めてくださいということでした。ああ、コロナウイルス問題で在宅勤務になった人が家族のてまえベランダでたばこをすることになったのかな。などと想像してしまいましたが、はて実態は如何に。

 さて、「におい」問題が出てくれば化学関係の人間は誰でも一家言あるのではないでしょうか。

 私が学生だったころ、というか大学に入って化学系に進学して「工学部5号館」という、いわゆる化学棟に通うようになったころですが、化学の研究室、もっと言うと有機化学の研究室のある階には、なんというか独特に匂いがあったものでした。研究室が発生源なのでしょうが廊下までまん延していて、エレベーターに乗っていても「その階で扉が開くとにおう」というレベル。今考えると「これは体に悪いのでは」と思うのですが、当時は「ああ、化学棟のにおいだなあ」などと気にもしていませんでした。

 もちろん、これは昔話です。今の大学でそんな強いにおいがしていたら、皆で「なんだ、なんだ」「事故があったのか」と廊下に人があふれることになるでしょう。

Tabako

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2020.06.01

オンライン授業のメリット・デメリット(江頭教授)

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 新型コロナウイルスの感染拡大を防ぐためにオンライン授業の形で始まった2020年の新学期、5月20日からスタートした授業も一週間を超えて2回目の授業が進んでいるところです。

 学生諸君はこの新しい授業の形態をどのように考えているのだろうか?我々教員も手探りの授業形態なので学生の意見を聞いてみたい、問題点があれば改善したいし、良い点があればそれを伸ばしてゆくべきだ。そんな考えから1年生を対象としたフレッシャーズゼミという授業で「オンライン授業」の良いところ、悪いところについてグループ討論をしてもらいました。

 私のフレッシャーズゼミのクラスでは3つのグループに分かれて討論を行ってもらいましたが、まとまった内容はみなよく似ていました。

 メリットとして挙げられていたのは「通学時間と交通費の削減」そして「お金の節約」。まあ確かにその通りですね。少し違う視点かも知れませんが「対面ではないためプレッシャーがあまりない」という意見も。中には「朝、二度寝出来る」という意見もありましたが、先生それはよくないと思うな。

Online_school_girl

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