凝固点上昇? 超分子構造の効果について(片桐教授)
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このブログを書いている片桐は、少し(かなり)へそ曲がりな人間です。先日の「「凝固点降下」はあるのに「凝固点上昇」が無いのは何故か(江頭教授)」に、少し噛み付いてみましょう。
ハロゲンボンディングという現象があります。ハイドロジェンボンディング(水素結合)のうちまちがいではありません。ハロゲン結合と言われる、フッ素化学の分野では知られているが、しかし、他分野ではあまり知られていない現象です。
1,2-diiodotetrafluorothane (融点-23℃)と1,2-diethlenediamine(融点-55℃)を混ぜてできた結晶体(融点105℃)の中に見られる、窒素の非共有電子対(陰電荷)とフッ素により電子を引っ張られて陽電荷を持ったヨウ素の間の相互作用です。このハロゲン結合の効果により、混ぜ物の融点はとても高くなります。
これを混合による「凝固点上昇」と呼ぶのは、少し強引ですが、このような混合により新しい高次構造を構築する例は、超分子化学分野では知られている現象です。
このような現象を何に使うか、考えてみると面白いかもしれません。
似たような現象で、benzene(融点5.4℃)とhexafluorobenzene(融点5.0℃)を1:1で混ぜてやると、融点23.7℃の結晶体ができます。
この結晶体の単結晶X線結晶構造解析による分析結果は、このbenzeneとhexafluorobenzenがface-to-faceでかわりばんこに重なって、柱構造の構築を示します。
これはbenzeneのπ電子はδ−の陰電荷として働くのに対して、hexafluorobenzeneのπ電子はフッ素原子の強い電気陰性度により引っ張られてしまい、π電子系がむしろδ+の陽電荷として働き、benzeneの陰電荷と相互作用するためであるとされています。
私個人は、この高い融点をこのような電荷相互作用によるエンタルピーの効果だけに帰することにはさらに疑問を持っています。融解プロセスを考えると、むしろ、融点はその柱状の「超分子」間の相互作用が解ける転移温度であり、その融点の上昇効果はエンタルピーではなくエントロピーによるのではないかと考えています。つまり、ギプスの自由エネルギー式では
ΔGliq-sol = ΔHliq-sol +TΔSliq-sol
です、
融点では
ΔGliq-sol = 0
だから
融点
T = ΔHliq-sol / ΔSliq-sol
となります。
ここで結晶から超分子構造への変化は 結晶から単分子になる転移に比べ ΔSliq-sol が極端に小さくなります。分母が小さくなるから融点 T は高くなるという理屈です。融解のプロセスに階層性があれば、融点は高くなるのではないかと、私は考えています。
これについて理解するためには物理化学をしっかりと理解することが必要です。融点の分子的な意味はまだまだ未解明なところが多く残っています。
化学って深くて面白いですね。
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