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「今日は地球の温度を計算してみよう」(その1)(江頭教授)

| 投稿者: tut_staff

 私の専門は「化学工学」です。大学の卒業学科も「化学工学科」。その「化学工学科」に大学2年生になって配属されて、最初の授業の第一回で言われたのが表題のセリフ「今日は地球の温度を計算してみよう」でした。「えっ、そんな事できるの?」と驚いたことをよく覚えています。今でこそ温暖化問題に絡めた温室効果の説明で広く知られる様になった地球の熱収支(エネルギーバランス)の議論ですが、当時はまだ一般的ではなかったのですね。

 「化学工学」の起源は「化学工場の設計」です。化学反応をコントロールするためには温度を上げ下げする、つまり加熱や冷却をすることは必須ですから、「伝熱工学」は化学工学の重要な一分野となっています。その中では電磁波(赤外線とか)による伝熱(輻射伝熱とか放射伝熱とよばれます)も重要な現象として扱われています。宇宙に孤立した地球では、エネルギーがやってくるのも熱が逃げてゆくのも電磁波がメインですから、実は放射伝熱による熱収支の例題としては比較的扱いやすい問題なのです。

 真っ黒な物体でも加熱されて温度が高くなると「赤熱」というぐらいで自ら光を発するようになります。その光によってエネルギーが伝わる現象が放射伝熱です。温度が高いほど放射されるエネルギーも大きい、というのは感覚的に分かると思いますが、それを定式化したのがシュテファン=ボルツマンの法則です。真っ黒な物体の表面積から放射されるエネルギーの密度は温度の4乗に比例します。その比例係数がシュテファン=ボルツマン定数(ボルツマン定数じゃないよ!)で、その値は 5.67×10−8 W m−2K−4 です。

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 地球の周囲長は約4万kmです(キリが良い数字なのは偶然ではありません)から、そこから半径を計算して6.37×106m となります。よって地球の表面積は1.27×1014m2 。これに先のシュテファン=ボルツマン定数と温度の4乗をかければ地球から逃げてゆく熱の速度が計算できます。これが温度の関数になっていることがポイントで、逆に考えると地球から逃げてゆく熱の速度がわかれば地球の温度が計算できる。「地球の温度を計算して」みることができるわけです。

 地球から逃げてゆく熱は太陽から地球にやってくるエネルギーに等しい。両者がつり合わないと、余ったり不足した熱で地球の温度が上下するから、結局はつりあって等しい速度になるはずだ。これがエネルギー収支の考え方です。

 結局、地球の温度を計算するには太陽から地球にやってくるエネルギーを計算すれば良いのですが、ではどうやってその値を計算すれば良いのでしょうか。それについては次回に紹介しましょう。

江頭 靖幸

 

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