寅さんと産業革命(江頭教授)
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寅さん、というのは有名な映画のシリーズ「男はつらいよ」の主人公。フーテンの寅、と呼ばれるくらいで「自由な生き方」をする人物ですね。シリーズ第40作の「男はつらいよ 寅次郎サラダ記念日」のなかでこの寅さんが大学の授業に潜り込むシーンがあります。その授業で扱われていた内容が「産業革命」。産業革命についてはいろいろな見方があり、共通の見解に至ることは難しい。いまや共通の見解を得ることができないということが唯一の共通した見解である、とかなんとか。要するに面倒くさいこと、もっと言えば益体もないないことをごちゃごちゃいってるだけ、という揶揄を含んだ描写でしょう。
ということで「産業革命」について何か言うなら自分の立場をハッキリさせることが必要ですね。昨日の記事で日本の産業革命は明治維新、というような表現をしたのですが、どういう意味でそう言ってるのかを説明したいと思います。
明治維新も産業革命も、歴史的な大きな変化です。それが何時起こったのか、というかどの時点を起点と考えるのか、という議論を始めればそれこそいろいろな見解が出てくるでしょう。あるいは何がその変化の原因なのか、となればこれも簡単には明らかになりません。
しかし、産業革命前の社会と産業革命後の社会には明らかな違いがあります。それは物質的な豊かさです。江戸時代には天明の大飢饉をはじめとした飢饉、不作による深刻な食料不足になんども襲われて万単位の死者が出たと言われています。豊かさの指標は色々あるでしょうが充分な栄養が取れることはその基本中の基本でしょう。
少し調べてみましょう。2020年の現在、日本で飢えて死ぬ人はどのくらいいるのでしょうか。
厚生労働省が取りまとめている人口動態統計はデータが整理されるまで時間がかかるので年次データが整理されているのは2018年までです。2018年に栄養失調(具体的には「疾病、傷害及び死因の統計分類」のE40番台です)による死者は2069人でした。死者の総数が136万人なのでごくごく一部だということが分かります。もちろん、栄養失調でなくなった方がいるということは重い現実ではありますが、現在の日本の社会で餓死する可能性は決して高くない(0.16%程度)ということは明かではないでしょうか。
この一点において現在の社会が産業革命前の社会と性質が異なっていることは明らかだと思います。現在の社会と以前の社会、具体的には江戸時代の社会とのこの違いは一体何によるものか。その違いの原因が産業革命である、というよりその変化の原因を産業革命と名付けよう、というのが私の考えなのですが、如何でしょうか。
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