温暖化への人工排熱の寄与はどの程度か?(江頭教授)
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前回、前々回の記事で地球の温度が「太陽から地球にやってくるエネルギー」と「地球から宇宙に放射される熱」のバランスで決まっている、というエネルギーバランス(熱収支)の考え方を紹介しました。でも実際には太陽のエネルギー以外に人間が地上で排出する熱エネルギー(人工排熱)もあるはずです。この効果はどの程度なのでしょうか。今回はその問題について考えたいと思います。
まず太陽から来るエネルギーを QS とします。単位はSIなら[W]ですね。一方で地球から放射伝熱で宇宙に逃げてゆく熱は、地球の平均温度 T (単位は K )の4乗に比例している。両者がつり合うので
QS ∝ T 4
となります。比例定数を k とすれば
QS = kT 4 (式1)
です。
ここで人間が発生させる熱(人工排熱) QH が新たに加わって、温度が ΔT 変化したとすると
QS + QH = k (T+ ΔT) 4 = k T 4+ 4k T 3ΔT +6k T 2ΔT 2 +4k T ΔT 3 +k ΔT 4 (式2)
となります。(式2)を(式1)で割り、
1 + (QH/QS) = 1 + 4 (ΔT / T ) +6 (ΔT / T ) 2 +4 (ΔT / T ) 3 + (ΔT / T ) 4
ΔT / T が充分小さいとすると
(QH/QS) ≒ 4 (ΔT / T )
よって
ΔT ≒ 1/4 T (QH/QS)
と評価されます。
さて、実際に数値を入れてΔT の値を評価してみましょう。
太陽から来るエネルギー QS は前回計算したアルベドを考慮した値で 3.04×1016 W。一方、人間が作り出す熱 QH は IEA のエネルギー統計から2017年の値として 1.59 × 1013 W と計算しました。これは、
(QH/QS) = 5.23 × 10-4
となり、約2千分の1。人間が地上で排出している熱は太陽のエネルギーの2千分の1程度に過ぎない。「太陽エネルギーは効率1%で利用できるだけでも人類の必要とするエネルギーの20倍はある」と言いうと QS は非常に大きい様な表現です。でも、私はQH も結構大きいな、という気もしています。
さて、地球の平均温度 T を 300 K として ΔT を評価してみましょう。
ΔT = 300 / 4 × 5.23 × 10-4 = 0.039 K
となります。
結果は約 0.04 ℃。産業革命以降の気温上昇が約1℃程度だと言われているので、その4% 程度は現在のエネルギー利用に起因する、という結論になりました。
人為的な熱の発生は温暖化の主要な要因ではない(つまり、人為的な熱の発生を抑えても温暖化問題は解決しない)という事を確認したうえで、やっぱり私は大きいなと思います。逆の意味で「人間の存在って凄いな」と思うのですが…。
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