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甘い匂いがする「アスパルテーム」(江頭教授)

| 投稿者: tut_staff

 私が大学で卒業研究をしていたころですから既に40年くらい前の話。別の研究室に配属になった同期生が実験をしているところに尋ねていったときの事です。

「この装置でアスパルテーム合成プロセスの研究をしてるんだ」

「アスパルテームって何?」

「人工甘味料だよ。ほら、これが僕が合成したアスパルテームさ。」

そう言ってサンプル瓶に入った粉末を手渡してくれました。中には白い粉末が入っているだけで何の変哲もない...あれ?なんか甘さを感じるんですけど。

 アスパルテームは普通の砂糖(スクロース)の200倍の甘さがあるとされています。目に見えないような小さな粉末が風に乗ってほんの少し舌にくっつくだけで、充分に感知できる程の甘さがあるわけですね。

 このエピソードは、今まではアスパルテームの甘さが如何に強力なのか、ということを示すのだと思っていました。いま考え直してみると、しっかりとサンプル瓶に保存されている試薬でも、ごくわずかな量なら粉末として空気中を拡散してくることがある、という事も示しています。普通は気がつかないのですがアスパルテームの甘さによってたまたまそれが認識できたということでしょう。甘味料なら面白エピソードですが、有毒な物質やウイルスを含む検体を扱うと事を想定すれば、サンプルの扱いには充分な注意が必要だという教訓でもありますね。

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 さて、農業畜産振興機構が公表している2018年10月から翌年9月までの日本の砂糖の総消費量は187万9千トンでした。同機構はアスパルテームの消費量について食品化学新聞社「食品添加物総覧2011‒2014」からの引用とした上で年間約480トンであるとしています。

 統計の年度にややずれがあるものの、両者を比較すると約4000倍の差があるのです。砂糖に比べてアスパルテームの使用量はまだ微々たるものだと一瞬思ってしまいます。でも、よく考えてください。アスパルテームは砂糖の200倍の甘さがあるのです。それを考慮すると4000倍の差は20倍に縮まります。

 20倍を言い換えれば、アスパルテームの消費量は甘さ基準で砂糖の約5%ということになります。まだ大きな違いがあるわけですが人工甘味料はアスパルテームだけではありません。そこまで考えると人工甘味料は私達の感じる「甘さ」のそれなりの割合を担っていることが分かりますね。

江頭 靖幸

 

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