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人間はどのぐらいの熱を作り出しているのか? (江頭教授)

| 投稿者: tut_staff

 地球温暖化の大きな原因の一つは人間が化石燃料を利用することです。でも、化石燃料が燃えて熱を出すから温度が上がる、ということではありません。これは初歩的な話で皆さんご存じかと思います。では、実際に人間が作り出す熱エネルギーはどの程度なのでしょうか。今回はその問題について考えてみたいと思います。

 まず世界のエネルギー生産について。今回はIEA(International Energy Agency 国際エネルギー機関 )が出している「World Energy Balances 2019」という文書のデータをみてみましょう。(この資料の Summary はIEAのWEBサイトに登録すれば無料でダウンロードできます。)

 さて、以下のグラフに1971年と2017年の燃料別のエネルギー供給量が示されています。「えっ、2017年?」そう思ったひともいるかも知れません。1971年は「むかしむかし」ということで良しとしても何で2017年なの。今年は2020年。この文書は2019年版だというのに…。でも、これはしようがありません。国際的なエネルギー統計の集計には時間がかかるものなのです。(というか例え時間がかかるとしても、全世界のデータが出てくること自体が凄いことなのですが。)

 さて、2017年の世界のエネルギー供給は 13,972 Mtoe だと言います。このうち、Hydoro(水力発電)、Biofuels (バイオ燃料)、Other ren. (その他再生可能エネルギー)を合わせて14%です。逆に言うと化石燃料である Coal(石炭)、Oil(石油)、Nat. gas(天然ガス)そして核反応から熱を発生させている原子力(Nuclear)の寄与が86%ある、ということです。

 水力やバイオ燃料などの再生可能エネルギーは元は太陽エネルギーですから、太陽から来たエネルギーが熱に変わる過程で仕事を取り出しているだけだ、と言えるでしょう。化石燃料ももともとは太陽のネネルギーだ、と言えないこともありませんが温暖化問題を考えるせいぜい100年程度のタイムスケールでは太陽熱以外の熱源と言えるでしょう。原子力から生じる熱はもともと原子核の持っているエネルギーですからこれこそ人間が作り出した熱と言うことができます。CO2排出の議論をする場合、原子力をどう考えるかが議論になりますが、太陽エネルギー以外の熱を作り出す、という視点ではこれこそが本当の「人類が作り出した熱」ですよね。

 

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 さて、人類が作り出している熱は1年間(2017年です)で 13,972 Mtoe の 86% だ、というのですから 12,016 Mtoe となります。

 なるほど!で、Mtoe って何?

 これは説明が必要ですね。Mtoe の M が 106 を表すのは良いとして、toe は何でしょうか。tonne of oil equivalent (石油換算トン)で、石油1トンから得られるエネルギーを基準としたエネルギーの単位となります。IEA の定義によれば,

1 toe = 41.868 GJ

です。この数値を使って先の 12,016 Mtoe を換算すると 5.03 × 1020 J となります。

 これは1年間で作り出される熱ですから、本当は年間 5.03 × 1020 J というか、5.03 × 1020 J/y  ですね。SIに換算すると

5.03 × 1020 J/y = 5.02 × 1020 J/(365.25×24×60×60 s ) = 1.59 × 1013 W

となりました。 日本語にすると「16 兆ワット」です。うーん、これって凄く大きいという事だけはわかりますが一体どのくらいなのでしょう。

 世界人口を70億人として1人あたりに換算すると 2.29 kW です。日本のような100Vの電源で考えると約23A。普通の家庭の電気容量 ( 30A )の 7割ぐらいを常時使っているという感じでしょうか。でも、これって1人あたりですから家族が二人以上だとブレーカーが落ちてしまいますね。

 あるいは人間の消費カロリーとくらべてみるとどうでしょうか。

 1日分で 2.29 kW × 24×60×60 s/d = 1.97 × 105 kJ/d さらに cal に換算して1日当たり 4万7千 kcal という数値になりました。

 日本人男性の平均摂取カロリーが約2千 kcal ですから、その約25倍ぐらいのエネルギーが消費されている、つまり1人あたり25人分の労働で養ってもらっている、という感じでしょうか。こう考えると、べらぼうに大きい数字ではないな、と私は思いますが、皆さんはいかがでしょうか。

 

江頭 靖幸

 

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