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「今日は地球の温度を計算してみよう」(その2)(江頭教授)

| 投稿者: tut_staff

 前回は「化学工学科」に配属されて、最初の授業の第一回で「今日は地球の温度を計算してみよう」と言われた、という話からスタート。輻射伝熱で地球から宇宙に逃げる熱の速度と地球の温度の関係がシュテファン=ボルツマンの法則で与えられる。エネルギー収支から地球から逃げてゆく熱は太陽から地球にやってくるエネルギーに等しい。だから地球の温度を計算するには太陽から地球にやってくるエネルギーを計算すれば良い、という結論になりました。

 ではどうやってその値を計算すれば良いのか、それが今回のお題です。

 まず、太陽から来る光の強さを平均することを考えるとどうでしょうか。昼もあれば夜もある。冬と夏でも日差しは違うし、赤道直下と極地でも違うから平均するのは大変そうです。

 地上から考えると大変な計算が必要な気もしますが、宇宙からの視点ではきわめてシンプル。太陽からやってきた光線のうち地球に到達するのは結局地球と同じ半径の円の面積、つまり地球の影の面積に到達した光だ、という事がわかります。

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 太陽から地球の軌道に届く光のエネルギーの(太陽に直面した)面積当たりの速度を太陽定数と言いますが、その値は 1367 Wm -2です。地球の表面にやってくる太陽光線のエネルギーの密度はその 1/4 の342 Wm -2 。地球の表面積はさきほど1.27×1014m2 と計算されているので、4.34×1016 W と求められます。

 さて、最初の問題「今日は地球の温度を計算してみよう」に立ち返ってみましょう。太陽から地球にやってくるエネルギーと地球から放射されるエネルギーを比較します。太陽から地球にやってくるエネルギーは今、地球の全体での値を求めたのですが、実はシュテファン=ボルツマンの法則は放射熱の表面積当りの伝熱速度を与えています。ですから表面積当たりで考えれば面積をかける前の値、342 Wm -2 をそのまま用いることができます。これをシュテファン=ボルツマン定数( 5.67×10−8 W m−2K−4 )で割って四乗根をとる(ルートを二回)と、278Kという値が得られます。摂氏で5℃。地球の平均温度としてまずまずの値と言えるでしょう。

 大学生時代の私はこの結果にいたく感動したのですが、実はこの計算はやや省略のしすぎです。

 この計算では太陽からやってきた光がすべて地球に吸収されて熱となり、放射伝熱によって宇宙に逃げてゆく、と考えています。でも「光がすべて地球に吸収さ」れるというのは地球から反射光がない、ということ。「地球は青かった」じゃなくて「地球は黒かった」となってしまいます。

 実際には地球にやってくる光の一部は反射してそのまま宇宙空間にもどって行きます。その比率をアルベドと呼びますが、地球の平均の値は約0.3です。(この辺の事情については以前のこの記事を参照してください。)

 太陽から地球にやってくるエネルギーは3割減となってトータルで 3.04×1016 W、 表面積当たりでは、239 Wm -2 となります。この値に基づいて地球の温度を計算すると 255 K となり、摂氏では-18℃。低すぎ。これでは人類は凍えてしまいます。

 もちろん、実際の地球の温度はもっと高い。その原因が温室効果です。温室効果自体は温暖化問題が始まる以前から存在し続けていて「問題」というより、人類にとってなくてはならないものなのです。

江頭 靖幸

 

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