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「沸点上昇」はあるのに「沸点降下」が無いのは何故か(江頭教授)

| 投稿者: tut_staff

 昨日の記事で「凝固点上昇」という架空の現象について考えてみました。「凝固点降下」の逆の現象という位置づけです。となれば「沸点降下」につても語らずばなりますまい。なにしろ、高校化学の溶液の性質の授業では「凝固点降下」といえば「沸点上昇」、「沸点上昇」といえば「凝固点降下」という感じで必ず対になっていますからね。

 前回同様、「沸点降下」という現象がもし本当に存在したらどんなことが起こるのか、考えてみたいと思います。例によって水のモル沸点上昇が 0.52 K・kg/mol ではなくてモル沸点降下が 0.52 K・kg/mol だとします。

 飽和食塩水( 6.15 mol/kg )の沸点降下度は前回同様、塩の電解を考慮して 6.15 mol/kg × 2 ×0.52 K・kg/mol = 6.39 K、 約6.4℃ですから飽和食塩水の沸点は 93.6 ℃となります。

 さて、今回のケーススタディには「凝固点降下」「沸点上昇」とともに「溶液の性質」の BIG3 と呼ばれる(?)「浸透圧」にも登場してもらいましょう。

(1)飽和食塩水と真水を半透膜を挟んで接触させたところ、浸透圧によって真水から飽和食塩水に向かって流れはじめた。

(2)このシステムを93.6℃以上100℃以下の温度にしたところ、飽和食塩水は沸騰し始めたが真水は沸騰していなかった。飽和食塩水から生じた水蒸気を真水側に送ると水蒸気は凝縮した。これは飽和食塩水から真水に向かう流れである。

(3)(1)と(2)の二つの流れがちょうど釣り合う様に調整したところ、真水と飽和食塩水の間の永久運動が起こっていた。ついに人類は永久機関を実現し無限のエネルギーを手に入れ、サステイナブル社会を実現した。

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 今回はハッピーエンドになりましたが、でもやっぱりおかしいですよね。(2)のプロセスは食塩水の脱塩、つまり分離のプロセスなのですが、このプロセスが仕事不要(温度は一定に保たれていることに注意)になっています。水と塩が勝手に分離する、つまりこの現象が起こるためには塩と水は自然には溶け合わない、要するに溶液にならないことが条件なのです。

 「沸点上昇」と 「凝固点降下」とを並べると上がったり下がったりでなんとなく対照的なのですが「溶液」という視点でみると、より高い温度でも沸騰せずに「溶液であり続ける」、より低い温度でも凍らずに「溶液であり続ける」とみることができます。要するに溶液の方がより広い温度領域で安定なのだ、と考えると「沸点上昇」と「凝固点降下」の組み合わせしか無いことが自然に理解できると思います。

 えっ、なんで溶液の方が安定なのかって?溶液の方が不安定なら、それ溶け合わないってことですよ。そもそも溶液にならないじゃないですか。

江頭 靖幸

 

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